2013年5月25日 (第3056回)

性と生殖の倫理学~望まない妊娠に対する男女の責任~

東京理科大学理工学部 講師 堀田 義太郎

 女性と男性の大きな違いは、妊娠出産する能力あるいは可能性の有無にあると言えるでしょう。妊娠出産能力は、本人がそれを望む場合にはプラスの意味をもちますし、一般的にも子どもができるのはおめでたいと考えられています。しかし他方で、望まない妊娠は身体的な負担でしかなく、リスクでもあります。そして、望まない妊娠が起こってしまった場合には、人工妊娠中絶を選ばざるを得ない場合があります。

 中絶については、これまで主に生命倫理学の領域で様々な議論が蓄積されてきました。そこでは基本的に、胎児の生命と女性の権利の対立という枠組みが採用されています。たしかに、妊娠は女性の身体に起こる出来事であり、中絶は胎児の生命に関わります。

 他方で、妊娠や中絶に関して、男性の責任を重視する議論も少ないながらも存在しています。たしかに、生殖には男性が関与しており、また望まない妊娠が起こるのはほとんどの場合が性行為の結果です。

 では、妊娠と中絶そして性行為に対する男女の責任について、これまでどんなことが論じられてきたのでしょうか。そしてそこではどんな問題が提起されているのでしょうか。あらためて振り返り、考えてみたいと思います。