2013年10月5日 (第3071回)

マルクスを読む

立命館大学産業社会学部 特任教授 篠田 武司

 現在、マルクスがまた注目され始めているという。マルクスについて語る著述が読まれ、小さな勉強会も各地で開かれているという。1989年の「東欧社会主義」の崩壊以来、マルクス「主義」は理論的、現実的根拠を失ったという言説が世界に、また日本に拡がった。しかし、「純粋」な市場・資本主義を目指すネオ・リベラリズムが世界の主要な潮流となり、大きな構造的変化を資本主義にもたらしつつ、深刻な格差や貧困を生み出すなかで、あらためてマルクスの批判的資本主義認識が注目されはじめてきたのだといえる。

 マルクスは、古典経済学の批判を通して、資本主義の構造的特徴とその矛盾を明らかにしたと一般的には語られる。しかし、特に強調すべきは、資本主義がもたらした近代市民社会が、何よりも歴史上はじめて市民的個人を生み出したにも関わらず、資本主義はそうした個人を私的個人(社会から孤立した利己的個人)として生きることを強いている、こうした矛盾的個人のあり方が、実はマルクスが構想した未来社会で実現されるべき社会的個体という人間像であった、ということである。経済理論家マルクスは、また社会思想家としてのマルクスでもあった。

 本講座では、『資本論』第一巻の商品論・貨幣論を、そこに描かれる近代市民社会・個人のあり方に注目しながら読んでいきたい。