2015年4月11日 (第3125回)

『孔子伝』を読む

立命館大学文学部 教授 石井 真美子

 孔子は中国古代、春秋時代の末期に活躍した人物である。孔子がその後の中国で長い間政治イデオロギーとされる儒学の祖であることはよく知られている。しかし、果たして孔子の儒学とはその後の儒学と同じなのか、孔子の人生が本当はどのようなものだったのか、どのようにして孔子は儒学を確立するに至ったのか、などを知る人は少ない。なぜなら孔子は聖人として神格化され、その人生は後世多くの人によって書き換えられてきたからである。孔子の言行録である『論語』の中にも、真実の孔子の姿を伝えているものと、長い時間をかけて潤色された姿が入り混じっている。白川静氏の『孔子伝』は、そういった資料の中から丹念に事実を考察し、文字学の知識も活用しながら人間としての孔子の姿を探った研究である。また孔子の後の戦国諸子の思想が、孔子の儒教を軸に批判と再批判を繰り返して展開されていく様子を解説している。

 この講座では、白川氏の考察による孔子の人生と、儒学の成立についての部分を抜き出して解説し、その研究方法の一端を紹介する。