2006年2月25日 (第2763回)

ジェンダーと暴力 ― バッシング情況への批判

法学部非常勤講師・日本女性学会幹事 伊田 広行

 DV(親しいカップル内の暴力)は、特別おかしな男性だけの問題ではありません。多くのカップルの中に、DVと同類の、人をコントロールする関係、支配する関係があります。

 その背景には、男性というものが、強くあるべきだ、弱さや感情を示してはだめだと思うこと、女は「弱い存在」であり「守るべき存在」だと思うこと、男性は女性より上位であるべきだ、女性は従順であるべきだと思うこと、暴力も一つのコミュニケーション手段と思うこと、女性(妻)に、絶対的な依存対象であり、自分の気持ちをわかってくれ、自分を絶対的に保護し、世話し、守ってくれる「聖母」を求めると同時に、自分の思い通りになる従順な「侍女、メイド、召使」を求めるということ、自分と異なる相手の感情や他者性を見ず、自他未分化の中で相手と同一化して、それが夫婦一体でいいことだと思ってしまう愛情観、夫婦観(=一言でいうとカップル単位発想)、「他人が文句言うな、俺たち夫婦の問題だ」と他者を排除すること、「別れる(捨てる)ことはよくないことだ=別れないことが愛情が強いこと」という愛情観などがあります。

 DVは、旧来のジェンダーと結婚や恋愛という物語をベースに、相手個人の人権(「個的領域」)を認めずに、家族・夫婦・恋人という親密な共同体(「親密的領域」)の論理で、バタラーが自分の思い通りに相手を支配してしまい、それを悪いことと思わないという性質をもったものだといえます。