2006年3月11日 (第2764回)

地震火災から木造文化都市を守る試み

京都大学大学院 地球環境学堂 助教授 大窪 健之

 木造文化都市は、かけがえのない遺産であると同時に、地球温暖化の一因とされる二酸化炭素を貯蓄する巨大な倉庫であるといわれており、環境・文化の両面で、守るべき重要な社会資産となっている。

 これを守る上で考慮すべき最も重要な災害の一つは、いかなる文化遺産をも消滅させてしまう危険な火災を、同時多発的に引き起こす「地震火災」である。

 日本列島の起源にも関わる不可避な地震災害と共存しながら、将来に渡って伝統的な木造文化都市を守ること。この命題に応えることは、断水のない自然水利を再生し、地域市民が自主的に行える初期消火を重視した安全な環境を整備することで、初めて可能となろう。

 「環境防災水利」とは、風土に元々備わっていたはずの自然水利を、平常時から地域市民にとって使いやすい形で再生することを通じて、木造文化を最大の危機である地震火災から守り、豊かな水のある美しく安全な都市環境を実現することを目的とするものである。

 木造文化と都市内水利とは、同じ自然の恵みである水に起源を持つ。環境と防災という視点からこれらを再生し、後世に伝えていくことは、現在を生きる我々の責務でもある。