2016年9月3日 (第3176回)
体性感覚の世界 - 水平な床、傾く床、揺れる床 -
立命館大学 文学部 教授 東山 篤規
人には五感---視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚---があります。そして、この五感を通して外界から与えられる情報が処理されると考えられています。この考えは間違ってはいませんが、すこし不正確です。というのは、五感に含まれない感覚、いわゆる体性感覚があるからです。これには、体の動き、位置、バランスをはじめ、緊張、疲労、痛み、体温感(悪寒、火照り)、食欲、吐き気、震えなどが含まれます。ただ、これらの体験をうまく整理することはむずかしく、古くは一般感覚として五感のベースにあるとされてきました。 認知心理学の使命が、外界からの情報を受けとめ、それを消化し、最後には外界に戻す人の活動を解明することならば、体性感覚の位置づけは重要です。なぜなら、われわれの体験は、じかに外界からの影響を受けているのではなく、体を必要な媒介項にしながら体という制約の中で進行しているからです。この考え方を最近では「身体化された認知」といっている人がいます。この講演では、講師たちによって本学の環境傾斜装置を用いて10年以上にわたって蒐集された、床面の知覚に関するデータをもとに、外界、身体、体験の関連性を考えてみることにします。