2016年8月27日 (第3175回)

紛争後の正義と和解をめぐる相克―痛ましい過去を乗り越える多様な試み

立命館大学 国際関係学部 准教授 クロス 京子

 冷戦後の世界では国家間戦争が激減し、内戦や国内紛争が頻発するようになりました。今日の紛争の特徴として、民兵や犯罪組織など、正規軍以外の戦闘員の参入により、権力や資源をめぐる私的目的による暴力が横行することや、宗教や民族などが争点として掲げられることから紛争が長期化することなどが挙げられます。さらに、民間人が攻撃の標的とされるだけでなく、加害者としても紛争に関わるようになっています。

 国際社会は、こうした紛争経験国で暴力が再燃することのないよう、様々な支援を行ってきました。その一つに、紛争下で行われた重大な人権侵害を刑事裁判や他の手段を用いて清算しようとする試みがあります。罪を犯した個人を裁くことで、憎しみの連鎖を断ち切り、悲劇を二度と繰り返さないことを目的とするものです。また紛争の背景や真実の解明によって共通の歴史を構築し、国民間で和解を促そうとする活動もあります。しかし、背景や規模、性質が異なる紛争に対し、正義や和解達成のマニュアルがあるわけではありません。紛争後の社会に生きる人々が実感できる正義とはどのようなものなのか、和解はどのように達成され得るのか、具体的事例を取り上げながら考えたいと思います。