2016年10月8日 (第3181回)

デリダ『グラマトロジーについて』を読む

立命館大学 文学部 准教授 亀井 大輔

 フランスの哲学者ジャック・デリダが没して今年で12年になります。彼の思想は「脱構築」という語で広まりましたが、『グラマトロジーについて』は、この言葉が初めて用いられ、彼の独特の考えが打ち出された1967年の著作です。その後の人文学の領域に大きな影響を与え、彼の主著のひとつにほかならない本書は、現代哲学の名著のひとつとも言えるでしょう。

 「グラマトロジー」とは、エクリチュール(文字、書くこと)についての学という意味です。しかしデリダは新たな「文字の学」を提唱しているわけではありません。彼はむしろ、西洋の知の歴史においてエクリチュールが、パロール(話し言葉)に対して劣った位置に置かれてきたことを暴いていきます。その議論はけっして平易なものではありませんが、メールやSNSで文字コミュニケーションをさかんに行なう現代の私たちにとっても示唆に富むものでしょう。

 講座では、本書の内容を紹介するとともに、アルファベットを用いる西洋の言語とは異なる言語をもつ日本でエクリチュールをどう考えればよいか、という間文化的な視点からも、デリダの思想を考えてみたいと思います。