2016年10月1日 (第3180回)

メルロ=ポンティ『知覚の現象学』を読む

立命館大学 文学部 教授 加國 尚志

 メルロ=ポンティ(1908?1961)の『知覚の現象学』(1945)が出版されて70年以上が過ぎました。今日ではもはや古典となったこの著作は、その著作自体が読まれることは少なくなっても、「身体」や「知覚」や「言語」の問題について語られる際の基本的な参照文献でありつづけています。

 『知覚の現象学』の魅力は、哲学のさまざまな問題への取り組みを、まず「身体」の経験に立って考えるところから始める、というところにあります。世界や環境に住みついた身体について反省的な記述を行うことによって、哲学的思考を身体的経験の地盤の上に立たせるという、ある意味では素朴とも言えるこの作業は、知識と人間の関係の本来的なあり方を発見させてくれるものです。そのための方法が現象学と呼ばれる哲学でした。現象学とは、科学以前の私たちの世界経験を発見させてくれる哲学的方法に他なりません。

 今回の講座では、『知覚の現象学』の内容について解説しながら、メルロ=ポンティの哲学が私たちに問いかけているものを、聴講者のみなさんとともに考えたいと思います。