2018年9月15日 (第3249回)

ハイデガー『存在と時間』を読む

立命館大学文学部 非常勤講師 小田切 建太郎

 1927年に公刊されたハイデガーの『存在と時間』は、現代哲学の古典中の古典として21世紀の今の今までつづく世界の思想潮流のなかで主役を演じてきました。この本でハイデガーは、古代から近代の哲学を、存在と時間という巨大なふたつの視座から捉え直すという壮大な見得を切りつつ、「日常性」「現存在」「実存」「世界内存在」「不安」「死への先駆」といった魅力的な術語群を通して人間存在の根幹に迫って行きます。しかしこの本はある事情から急遽書かれたもので、しかも途中までしか書かれませんでした。そのためか、タイトルは『存在と時間』という存在論の問題を示しているにもかかわらず、実際に論じられるのはもっぱら道具の分析、非本来性や本来性、不安や死への先駆などの人間存在の実存の問題だというズレがあります。それでは、本来『存在と時間』で問題にされるはずだった存在の問題とはどのようなもので、それは人間の実存とどう関係するのでしょうか? 今回の講座では、『存在と時間』の内容について解説しながら、ハイデガー哲学が現代のわたしたちに問い掛けるものをみなさんといっしょに考えてみたいと思います。