2018年11月3日 (第3256回)

継母語で書くこと ―ポスト国民文学時代の新英語作家たち

立命館大学文学部 教授 吉田 恭子

 英語圏の代表的文学賞「ブッカー賞」の40周年を記念して、2008年に「ベスト・オブ・ブッカー」の候補作が発表されました。過去の受賞作の中から選ばれた6つの候補作の中でブリテン島生まれの作家による作品は2冊、そうして選ばれたのは、インド生まれのイギリス作家サルマン・ラシュディ作『真夜中の子供たち』(1981)でした。また、2010年にアメリカの週刊誌『ニューヨーカー』が発表した期待の若手小説家ベスト20リスト「20アンダー40」では、20名の内9名が海外生まれ、内6名が英語を公用語としない国の出身です。近年イギリスやアメリカの文学を担う顔ぶれがこれまで以上に多様になってきました。その背景となるいくつかの要因をたどっていくと、言語と国籍を結びつけて考える近代的国民主権国家という枠組とそれを文化の面から支えてきた国民文学という概念を見直す必要性に迫られていることがわかってきます。それは単に英語文学の世界の変化ではないのです。今回は「母語」ならぬ「継母語」をキーワードに、アメリカを中心とした現代の英語小説の多様性について問題提起をできればと考えています。