2018年12月8日 (第3261回)

医療過誤訴訟の課題

立命館大学法科大学院 教授 平野 哲郎

 聖職と考えられてきた医師を訴えることのハードルはかつては高いものでした。しかし,最近は,医療過誤訴訟は増加しつつあり,医療界からは訴訟を恐れて医療が萎縮したり,外科医や産科医のなり手が減ったりしているという声も聞かれます。では,患者にとって医療過誤訴訟は容易になったのでしょうか。決してそうはいえません。  まず,医療訴訟には専門知識や経験が必要なため,患者側で引き受けてくれる弁護士は少ないのが実情です。さらに,医療行為のどこに問題があったのかを原告側が明らかにしなければなりませんが,医師の協力を求めなければ,医療記録を分析して問題点を指摘するのは困難です。しかし,患者側に協力してくれる医師は,日本ではなかなか見つかりません。さらにようやく裁判を始めても,医療ミスや,ミスと損害の因果関係を証明することは容易ではないため,患者側の勝訴率は年々下がっています。  これらの課題を乗り越えるためには,医療訴訟における証明責任の所在や,専門的な知見を訴訟で利用する方法を考え直す必要があります。これらに関する最近の研究成果を紹介しながらお話ししたいと思います。