2019年3月9日 (第3270回)

認知能力減退に備えた家族信託の活用について

立命館大学法学研究科 教授 岸本 雄次郎

 ようやく子育てが終了したと思ったら、今度は親の介護が始まった……孫はできなかったことが日に日にできるようになる一方、親はできていたことが段々できなくなっていく……加齢とともに身体能力も認知能力も減衰していくのは仕方ないことなのでしょう。

 認知症になりますと、症状の程度によっては、遺言を作成することができなくなるなど、原則として相続対策を新たに行うことはできなくなってしまいます。よしんば認知能力が残っているうちに遺言書を作成しておいても、認知症になると金融機関が預金の払出しに応じてくれなくなる恐れがあります。成年後見制度を利用しても、後見人が相続対策をしてくれるわけではありません。施設への入所費用を捻出するために居宅を売ろうにも後見人は原則としてその売却ができません。後見人の代理権の内容はかなり制限されているのです。

 そこで、家族信託の利用が注目されています。家族信託とは、信頼できる親族に財産を託し、その管理や処分を任せる契約のことで、その内容はかなり自由に設定できます。財産を託された人は、後見人に比してかなり広範囲のことができます。自分の死後の財産配分も決めておけますので、遺言代りにもなります。遺言ではできない、自分の死後の次の次の財産の承継者を定めることすら可能です。そこで、信託の仕組みや家族信託の活用事例をお話申し上げたく存じます。