2019年4月13日 (第3274回)

自殺予防に向き合う文化と心

立命館大学総合心理学部 教授 川野 健治

 「日本に自殺が多いのは、切腹とか心中とかの物語があり、自殺を受け入れる文化があるからではないですか」。

 海外で日本の自殺対策の話をすると、時々上のように指摘されることがある。確かにそのような物語はある。でも、本当に私たちは自殺を受け入れているのだろうか。そしてそのことが、自殺の多さと関係があるのだろうか。いや、その前に、その日本の物語に「自殺を受け入れる要素」はあるのだろうか。今回はいくつかのデータも示しながら、これらのことを考えてみたい。  

 日本の自殺者は1997年から1998年にかけて、およそ2万2千人から3万人へと急増し、その後自殺対策は日本の大きな課題となった。2006年の自殺対策基本法の成立、翌年に閣議決定された自殺総合対策大綱に基づく多様な取組みもあり、昨年度の警察統計では自殺者総数は急増前の状態に戻ったが、先進7カ国の中では未だ最も高い。つまり、日本は自殺が急増した国としても、15年の取組みを成功させた国としても、世界から注目されているのである。冒頭のような指摘にも、何とか応えてみたいものである。