2021年7月10日(第3338回)

アナグラのうた、再考

立命館大学 映像学部 教授 飯田 和敏

 2011年、私は日本科学未来館の常設展示『アナグラのうた-消えた博士と残された装置-』の演出を担当した。近未来のテクノロジー「空間情報科学」を観客に示す展示だ。ここにゲームの手法を応用することで体験強度を高めることを意図した。制作渦中に東日本大震災が起きた。社会は混乱し、現場にも物理的被害があった。暫くの期間、制作は休止となった。

 様々なものがゆれていた。私たちのこころも。展示のメッセージは「情報、共有、パワー」だ。あたらしいテクノロジーには不安もある。ただ、それをのりこえることで私たちの生活はもっと豊かになる。しかし、震災のダメージが続くなかストレートにこれを表現することはゲーム作家として困難になった。結果として私たちはそれを歌にした。そのうえで展示空間に組み込んだ。さらに、「滅びと再生の物語」を「装置」として添えた。私たちは「アナグラ」の中に願いを詰めた。「アナグラ」を訪れる者たちがそれを掘り起こし、歌はずっと続いてきた。そんな10年間。

 ところが昨年からのコロナ禍により、世界が反転した。私たちはいま「アナグラ」の中にいる。もう一年以上経つ。この状況で「情報、共有、パワー」がどんな意味を持つのか、それを考えたい。