2022年1月29日(第3350回)

ツーリズムが求める産業遺産の歴史性とデジタルテクノロジー

立命館大学文学部 准教授 山本 理佳

 文化遺産は、価値あるとされる時点の歴史性を保存・保護するものとされています。ただし、本講義で対象とする産業遺産は、様々な理由で「変化」を宿命づけられていて、一時点の歴史性の保存が難しい、特殊な側面をもつ文化遺産です。これに対し観光の現場では、それ程厳密な歴史性は求められないことが多く、要は人々がそこに歴史的な何かを感じられれば、そしてそこに満足感が得られれば成立します。すなわち、産業遺産の特殊性は、そうした観光の創造的な面とうまく適合する可能性を持っています。ただその一方で、現役の施設であったり、崩壊のリスクがあったりして、観光の現場と折り合わない側面も持ちます。とくにそうした可能性や制約の面を補うものとして期待されているのがデジタルテクノロジーです。講義では、そうした産業遺産の特殊な性質や制約についてとらえるとともに、そこにデジタルテクノロジーがどう活用されようとしているか、その現状について提示したいと考えます。