2022年4月16日(第3356回)

移民の『老い』から考える社会のダイバーシティ:フィリピン人移民研究を中心に

立命館大学国際関係学部 准教授 辻本 登志子

 超高齢社会の到来にあたり,さまざまな社会問題や政策上の課題が指摘されてきました。しかしそれらの多くは日本人の「老い」を想定したものであり,社会におけるさまざまな国籍や文化的背景をもつ移民の「老い」に社会の関心が向くことはありませんでした。どちらかというと,移民は日本の超高齢社会を支える労働力,あるいは社会保障の新たな担い手として捉えられる反面,かの女/かれら自身が「老い」をいかに考えているのかという問いが置き去りにされてきたように思います。国民を中心に据えた観点からは,現在進行しているさまざまなバックグラウンドをもつ人びとの「老い」や,それに伴う新たなニーズや課題を見据えることが困難になるでしょう。これまでの調査活動で得られたフィリピン人移民へのインタビュー資料をもとに,当事者からみた「老い」の課題とは何なのかを考察し,「老い」のダイバーシティを実現するために今後社会に必要とされることは何なのか,みなさまと共に考え,さまざまな意見を交換する機会にしたいと思います。