2022年8月6日(第3363回)

アジア・太平洋戦争と「徴用工」―帝国日本の労働力動員―

茨城大学人文社会科学部 准教授 佐々木 啓

 日中戦争期からアジア・太平洋戦争期にかけての日本では、国家総動員法などの法令に基づき、多くの人びとが軍需産業に動員され、労働することを求められました。日本人の男性はもちろん、女性や学生、あるいは植民地支配下にあった朝鮮人や占領地の中国人なども動員され、国家総動員体制は「帝国」という枠組みを拡張させながら広がっていきました。

 当然ですが、階層や出自、動員先などによって、人びとの労働体験は様々であり、実態には大きな差異がありました。たとえば同じ国民徴用令に基づく「徴用」であっても、日本人の体験と朝鮮人のそれとでは大きく異なっています。その違いがどのような背景の下に生じたのかを検証することは、日本の戦時体制全体のあり方を理解する上でも、重要な要素となると思います。

 本講演では、動員された人びとが具体的にどのような体験をすることになったのかを各種史料に基づいて検証し、帝国規模での労働力動員の重層的な構造を明らかにしていきたいと思います。「徴用工」問題が日韓関係の焦点となっていますが、その前提となる歴史的な実態について考える機会となれば幸いです。