2023年9⽉9⽇(第3385回)

京焼登り窯の新研究1-五条坂「窯持」の近代-

早稲⽥⼤学・⼈間科学学術院 准教授 余語琢磨

 京都府の伝産法指定工芸品「京焼・清水焼」といえば、茶道・華道の道具や、贈答品や土産物など、華やかな陶磁器が思い浮かぶ。一方、近代に入ると、「隠れた京焼」として電気機器用品等へのとりくみがあり、その生産額は伝統工芸品に比肩するか超えるものであった。

 たとえば、耐酸陶器の開発から化学陶磁器を製造した高山耕山家、造幣るつぼを開発した入江道仙家、清水坂から深草に移転し電気碍子、工業用炻器を製造した松風嘉定家などは、よく知られている。また、明治末より移転者が増えた日吉地区では、装飾陶磁器からしだいに日用品・工業用品の中小規模工場が主となり、大正期後半から工員(陶工)中心に「市内最大」の労働争議が起きたことも、近代京焼の一側面である。

 このような京焼の近代的変容については、木立雅朗らの一連の業績を除くと、さほど研究が進んでいない。そこで本講座では、京焼五条坂地区のN社のご好意により、近年新たに提供を受けた窯業経営資料の詳細な分析を通じて、装飾陶磁から産業用陶磁生産に転じ成長していく近代京焼企業と、そこで働く陶工の具体像を検討することで、伝統的手工業生産の世界におとずれた「近代化」を素描してみたい。