2023年10⽉21⽇(第3388回)

「作者」とは何か〜⼈間と⼈間でないものの境界線〜

京都⼤学⽂学部 准教授 川島 隆

 近年のAI技術の発達にともなって、AIは文学の作者になれるのか、といった問いが立てられるようになっています。しかし、立ち止まって考えてみるならば、「作者」とは何でしょうか。過去に目を転じれば、古代の文学には「作者」がいないことも珍しくありません。ただ単に特定困難なだけではなく、たとえばキリスト教の聖書文学は、そもそも人間の「作者」はおらず、神から与えられた言葉を書き記したものと位置づけられています。もしかすると、人間の「作者」が文学を生み出すというモデルが通用する時代は、人類の長い歴史の中のほんの一コマなのかもしれません。

 この回では「引用」という観点にもこだわりたいと思います。近年のインターネットの発達にともなって、既存のテクストを参照して編集することが飛躍的に容易になった結果、他人の文章をコピペして切り貼りした作品が文学賞の候補になるといった事態も生じています。ただし、既存のテクストを「引用」する行為は、文学にとって不可欠なものとされてきた歴史的経緯もあり、正当な「引用」と不当な「パクリ」の境界線がどこにあるのかは、簡単ではありません。そういった問題についても考えてみたいと思います。