2024年01⽉13⽇(第3394回)

出⼟⽂字資料から⾒える先秦史 – 楚国を事例として

⽴命館⼤学⾮常勤講師 ⽩川静記念東洋⽂字⽂化研究所客員研究員 ⼭⽥ 崇仁

 先秦時代の中国の歴史は、『尚書』・『史記』や『春秋左氏伝』などの文献資料が主要な研究材料であった。

 20世紀以降、甲骨文字の発見・青銅器銘文研究の進展・20世紀末以降の戦国~秦漢の簡牘の獲得など、新たに発見された同時代の文字資料(古文字/出土文字資料)を用いた研究が急速に進んだ。それにより、殷・西周は出土文字資料を用いた研究が主流となり、秦漢史研究も、大量の簡牘を分析する文書学的研究法が一大分野を形成している。

 ただしその間の春秋戦国時代、特に春秋時代は、その前後に比べて出土文字資料の数が相対的に少ない。青銅器に銘文を記録する風習は春秋時代以降も続いたが、定型句が多く歴史研究の材料として利用可能なものは少ない。戦国竹簡の内容は、既存の先秦史研究に大きな衝撃を与えたが、同時代史料ではないため注意を要する。そのため春秋史の研究は、後世の編纂資料を主要な研究材料とせざるを得ない状況が続いている。

 このように、資料の限界に制約される春秋史研究だが、今回の講演では数少ない出土文字資料を利用して、後世の文献が拾えなかった歴史的事実や同時代の歴史認識にスポットを当てたいと考えている。