2024年01⽉20⽇(第3395回)

「辟邪絵」に⾒る疫⻤と それを滅する神々

武蔵野美術⼤学造形学部⾮常勤講師/早稲⽥⼤学教育学部⾮常勤講師 下野 玲⼦

 奈良国立博物館が所蔵する「辟邪絵」は、邪悪な鬼を退治する神々が描かれた絵画です。「天刑星(てんけいせい)」「栴檀乾闥婆(せんだんけんだつば)」「神虫(しんちゅう)」「鍾馗(しょうき)」「毘沙門天」の5つがあり、もとは平安後期~鎌倉時代(12世紀)に制作された一巻の絵巻が切断されたものです。「天刑星」は毛髪の逆立った恐ろしい形相の神で、詞書(ことばがき)によれば「疫鬼(えきき)」をつかんで食べています。「栴檀乾闥婆」は小児の病の元凶となる鳥獣などの姿をした十五の鬼神の首を切り、鉾(ほこ)にその首を突き刺しています。「神虫」は大きな8本足の虫が鬼を押さえつけて食べるところです。「鍾馗」は端午の節句でその人形を飾る風習が知られていますが、ここでは「疫鬼」をつかまえ目をほじくり出すという、かなり凄惨な場面です。「毘沙門天」は逃げる鬼を弓矢で射落としています。これらに描かれた鬼は病を中心とする害悪をもたらす存在です。それぞれにどのような形のものが描かれており、どのような意味があるのか、中国・日本の関連作品も紹介しながら考えてみたいと思います。