人助けすれば仕事がくるかも!?
彼らはまったく知らない人であっても気軽に支援をします。困難に陥った原因や、日常的な支援のやりとりの有無に関わらず、そのとき困っているという事態だけに着目して誰でも支援するという態度を取っているのてす。案内を頼まれた場所が通り道なら連れていくし、ベッドが空いていれば知らない人でも泊めてあげる。さらには、見ず知らずの人の遺体を母国に送るお金をカンパしたり、トラブルを仲裁したり、刑務所に収監された仲間の支援をしたり。
その結果、長期滞在者は必然的に、現地で起こるさまざまな困難の解決にお金と労力を費やすことになります。しかし、贈与に対する返礼を期待する“互酬性”のロジックでは、たまにしか現地に来ない人を助ける理由は説明できません。なぜ彼らは、返礼を期待できない相手に救いの手を差し伸べるのでしょうか?
1つ目の理由は、彼ら共通のビジネス・プラットフォームであるTRUSTが、社会的活動を基盤としていること。SNS上での「あいつに本当に助けられた」といった第三者からのコメントは、周囲に「人に親切にする余裕があるから信用できる」という印象を与えます。「人助けすれば仕事の注文が来るかも」と期待できるわけです。このような、ビジネスの利己的な関心と利他的な振る舞いが結び付けられるプラットフォームが作られると、支援者は別の誰かからビジネスを持ちかけられることを期待できるし、支援を受けた人も有形の返礼はできなくても、コメントや口コミを通じて相手のビジネスチャンスに貢献できる――そう信じられる世界が築かれていくわけです。
2つ目の理由は、助けを提供する人は「ついで」で対応していることです。余裕のない時には無理をしません。気楽で、互いに負い目が生まれない関係性がこのシステムを維持しているのです。「ネットワークにSOSを投げれば、そのときに無理なくできる人が1人くらいは現れる」と彼らは言います。ただし応答の有無は不確実なので、支援を受ける可能性を高めるためには異質で多様な人と大量に仲良くなっておく戦略が重要となります。「詐欺に遭った時に情報をくれるのは詐欺師だし、大事なのは仲間の人数じゃなくタイプの違う仲間をどれほど持っているかだ」と彼らは言い、携帯電話やSNSには大物官僚から大企業の社長、詐欺師、ポン引き、囚人まで、ありとあらゆるタイプの人が登録されているのです。