Report #02

「まずは臆せずにやってみよう」“ゼリー技術×配管内ロボット”に挑む

歴代の配管内検査ロボット

江戸時代の日本酒が複数ファクターの錯綜から発展したように、ゼリー食の研究は災害食や備蓄食としての可能性を探る中で予想外の展開につながりました。それが、立命館大学理工学部ロボティクス学科の加古川篤先生をリーダーとするチームとの共同プロジェクト「Pipeline for Lifeline」です。加古川先生のチームは、配管の中を進んで内面を検査するロボットの研究をされています。それについてディスカッションする中で、「災害時、建物の配管の中を進むロボットがゼリーを運べば、閉じ込められた人の命を助けられるかもしれない」という、とても夢のある展開に気付いたのです。

2010年に起きたチリの鉱山事故で、作業員たちが約1カ月にわたって地下に閉じ込められたニュースは記憶にあると思います。実はこのとき、地下に直径10cmの配管のような穴が掘られ、非常用の食料としてゼリーが輸送されていました。

水道管やガス管などの配管は、建物の中に元々備わっているものですし、都市空間の中にもネットワーク化された地下インフラとして備わっています。コストが低いこともあって、配管を建物や都市の中にうまく整備しておくことで災害への備えになるというポテンシャルが注目されているのです。ここでその配管を移動できるロボットについて、加古川篤研究チームの岡さんにご紹介いただきたいと思います。

ロボットが曲がりくねった配管の中を移動するには、①配管の中を推進する、②旋回して向きを変える、③下に落ちないように配管内で突っ張る、という3種類の力が必要です。私たちが開発中のロボットは、オムニホイールと呼ばれる3組の車輪を動かすことで推進し、本体前後に取り付けられた半球状の車輪を回転させることで向きを変え、関節内部のバネの力によって車輪を常に突っ張った状態で壁に接触させる、という仕組みで配管内を走行できます。
先端にLEDカメラとライトが付いているので、外から見えない場所を移動するときも、カメラの映像を確認しながら配管内を走行可能です。現在、加古川先生が中心となって実用化に向けた開発を進めているところです。

野中岡さん、ありがとうございました。活用可能性として私たちが考えているのは、災害が起きたときに建物に閉じ込められた生存者のもとへとロボットを送り、健康状態を確認するとともに、嗜好性・機能性・可搬性に優れたゼリーを届けるという、未来の食搬送システムです。
インフラとしての配管とゼリーとの関係や、管内検査ロボットとゼリーとの関係を、システム工学の観点でいうと、持続可能性やレジリエントな生産・サービスシステムとして捉えて設計できるのではないかと考えています。研究の周辺にある可能性にであったときに「まずは臆せずに何かやってみよう」というアプローチで進んだ結果、自分自身の専門分野に直結するシステム設計のテーマにも辿り着いた。システム工学を専門とする私にとって、このような研究の進め方も一つのアプローチとして有効なのではないかと気付くことができた経験でした。

加古川篤研究チームに所属する岡義倫さん

積極的な情報発信でプロジェクトを前に進める

研究者にとって、学会やカンファレンスといったアカデミックな場で研究成果を着実に発表していくことはもちろん大切です。一方で、アジアの、日本の研究者として、食の未来を今このタイミングで発信していくことがプロジェクトを後押しするとも感じています。そのため、プロトタイプ段階の研究でも、純粋にアカデミックなカンファレンス以外のところにも積極的に発信するスタンスを取っています。

先ほど触れた2019年のサウス・バイ・サウスウエストにも、鎌谷先生のチームと食マネジメント学部1回生の学生3人とで参加したんです。日本酒100%のゼリーのプロトタイプを発表し、多くの参加者に興味を持っていただき手応えを感じられただけでなく、学生たちも英語でプレゼンテーションするという貴重な経験を得ることができました。新設学部の若手教員と学生がグローバルな舞台で発表する、というチャレンジを支えてもらい、立命館大学にとても感謝しています。

2020年のサウス・バイ・サウスウエストでは、昆虫食や分子調理法で知られる著名なシェフ・研究者のRoberto Flore氏、スタンフォード大でフードイノベーション研究を行っているSoh Kim氏、そして鎌谷先生と私の4人で「Gastronomic Sciences MeetEdoSustainability」と題したパネルディスカッションを行います。また加古川先生のチームとの共同で “ゼリー技術×配管内ロボット” 研究の展示も予定しており、このチャンスを足がかりに、プロジェクトをさらに一歩進めたいと考えています。

※2020年のサウス・バイ・サウスウエストは、新型コロナウイルスの影響で開催中止となりました。

Profile

のなか ともみ
立命館大学食マネジメント学部准教授(専門分野:生産システム工学、サービス工学)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科修士課程を2010年に修了。デルフト工科大学(オランダ)やスイス連邦工科大学に留学、修了後はマサチューセッツ工科大学に短期研究インターンシップ滞在。神戸大学大学院システム情報学研究科特命助教、青山学院大学理工学部経営システム工学科助教などを経て、2018年4月から現職。

現在の主な研究テーマは「持続可能な食・食サービス の設計」、「生体情報・ES評価を用いたラボラトリ実験と最適化によるサービスシステムの設計」(2017-2020、研究代表者)や「食を起点とした地域価値共創のためのデータ収集・分析システム」(2017-2020)。「エネルギ消費モデルを用いたサービス生産システムの生産性向上と価値創出」(2014-2016、研究代表者) などの研究テーマも手掛けてきた。