「京都の地に足をつけた平和活動を」国際平和ミュージアムスタッフとして国連事務次長講演会の企画・運営を行う
2024年11月1日、立命館大学国際平和ミュージアム(以下、ミュージアム)リニューアル記念として開催され、約400人もの聴衆を集めた、中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表による講演会。その本講演や2回のプレ企画の企画・運営にあたったのが倉本芽美さんだ。普段は学生スタッフとしてミュージアムのガイドを務める傍ら、さまざまな団体に所属し、平和のため主に核兵器廃絶運動を行う倉本さんに、講演会の裏側や、平和への思いについて聞いた。
「核抑止論」に抱いた違和感
倉本さんが核兵器問題について関心を持ったきっかけは、1回生の時の「平和学入門」の授業で「核抑止論」について学んだことだった。核兵器使用の可能性を認知させて相手国からの攻撃を抑止するという考え方に、強い違和感を覚えたのだという。「高校まで核兵器については悲惨な歴史しか学んでこなかった私には、核兵器は絶対的に悪でしかありませんでした。核兵器を平和のために使うという考えに“気持ち悪さ”を感じたんです」と振り返る。
同時に、当時参加していた「みらいゼミ」で知り合った国際関係研究科の先輩が、2022年6月にウィーンで開催された「核兵器禁止条約第1回締約国会議」に参加するため渡航する話を聞いたことにも、大きな影響を受けたという。「同年代の若者が国際会議に参加できることや、核兵器問題が過去のものではなく依然として国際的に議論されていることが衝撃でした。それから核兵器廃絶の運動に駆り立てられるようになりました」。
「KNOW NUKES TOKYO」から広がる活動
倉本さんは締約国会議に参加したユースによる核兵器廃絶のための団体「KNOW NUKES TOKYO(KNT)」の存在を知り、SNSでの現地報告を見ているうちに「自分もKNTのメンバーになりたい」と思うようになった。間もなくメンバー募集の告知を見た倉本さんは早速応募し、メンバーに選ばれたのだという。「KNTから私の活動が始まりました。東京を拠点に、被爆地ではないところで核兵器の問題を考えたいという思いで発足した団体で、いろいろな所で平和学習をしたり、イベントを作ったり、核兵器問題についてのSNS投稿などをしています」。
また、1回生の秋から「議員ウォッチ」という任意団体にも参加。これは日本の国会議員の核兵器禁止条約への立場をオンライン上で明らかにするプロジェクトだ。倉本さんはこの活動の一環で、地方の議員に「地方から核兵器禁止条約の話をしてほしい」と働きかけるため、さまざまな地方の議員や地元の市民たちに会いに行き、話を聞くという経験をした。倉本さんはこう話す。「この経験で“地方で活動する”という基礎を持つことができました。また同時に、自分の住む京都の地に足をつけた活動をしていきたいという思いが強くなりました。というのも、核兵器の問題は被爆地の問題として矮小化されてしまったり、政府に近い東京では活発だったりするのですが、関西には声を上げる同世代がすごく少ないと感じるからです。私は核兵器問題を特定の人だけが関わる問題にしてはいけないと思っていて、物理的にも全国の人がつながるために、自分が京都で活動する意義があると考えます」。
京都だからこそできるミュージアムの仕事
そんな思いから、倉本さんは2回生時に偶然見つけた「ミュージアム学生スタッフ募集案内」の応募用紙にすぐさま記入。ミュージアムのガイドとして勤務することになった。ガイドの仕事について「来館者の方々と“平和”について対話し考えることができて、非常に学びの多い時間です」と語る。
ミュージアムのリニューアル記念講演に関わるようになったのは、本講演のプレ企画として予定されていたワークショップの講師・高橋悠太さんと、KNTが縁で知り合いだったことがきっかけだという。「君島東彦ミュージアム館長と高橋さんをつないだことから、プレ企画のミーティングに参加する流れで、いつの間にかプレ企画二本と本講演の企画・運営にまで関わっていました。1回目のプレ企画では、登壇する学生の選定から確保まで行い、2回目のプレ企画は招聘する高橋さんの調整、当日のオンライン参加者のためのZoomの管理、マイク回し、司会運営、グループディスカッションのグループ作りを行いました。本講演では学生対話に参加する学生のコーディネートを任され、質問内容や質問者のジェンダーバランス、座席などがすべて偏らないようにするのに苦労しました」と講演時を振り返る。
ユースの力を信じて
準備期間は多忙だったが、国連軍縮のトップを招き、その企画・運営に携われることを貴重な機会ととらえ、楽しみながら関わったという倉本さん。何よりも本講演で第一線の生の声を聞くことができ、自身の活動の活力になったと話す。「中満さんが講演で、私たちのようなユースが果たす平和への役割をピックアップして強調されたことに、すごく感動しました。実はいろいろな団体から講演に呼んでいただくことがあるのですが、“若いから”というだけで呼ばれることに違和感というか“消費されている”感じがしていて…。でも中満さんは若い人をお飾りとするのではなく、しっかり声を聞くことが本当に大切なんだという話をしてくれた。自分の違和感は間違っていなかったと思えたし、自分たちの活動の小さな一つ一つが平和をつくっていくんだということを保証してもらえた気がしています」。
そんな倉本さんは、KNTや議員ウォッチのメンバーとしてだけでなく「一般社団法人核兵器をなくす日本キャンペーン」と「一般社団法人かたわら」のインターンとしても活躍している。「核兵器をなくす日本キャンペーンは、2030年までに日本が核兵器禁止条約に署名・批准することを実現するために市民と政治家両方に働きかける団体で、議員ウォッチでやっていた各地区運動ベースのところをもっと発展させて活動しています。かたわらは、高橋さんが代表理事を務める、核兵器廃絶を目指してユース世代が運営する団体で、彼が関西で活動するときにお手伝いをさせていただいています。どの活動も、私にとっては“仕事”だと思ってやっているので、学生だからと甘く見られないように真剣に取り組んでいます」と話す。
現在も、2025年2月に開催する核兵器をなくす日本キャンペーン主催の「被爆80年 核兵器をなくす国際市民フォーラム」を企画し、準備をしている最中だ。「フォーラムには、ユースの関わり方を議論する特別枠ももうけました。少しでも核兵器の問題に興味のある人に、気軽に来てもらえたら」と倉本さんは目を輝かす。ユース世代として第一線で声を上げる倉本さんを、これからも応援したい。
PROFILE
倉本芽美さん
広島市立基町高等学校卒業。写真を撮ることと、読書をするのが好き。
戦後80年を迎えるにあたって同世代に伝えたいのは「当たり前の生活が、なぜ当たり前にあるのかを想像するきっかけにしてほしい」ということ。「平和というのは何もしなかったら去ってしまうので、今ある当たり前の生活を守っていくことが大切」と話す。
KNOW NUKES TOKYO・メンバー、議員ウォッチ・リサーチャー、一般社団法人核兵器をなくす日本キャンペーン・インターン、一般社団法人かたわら・インターン、立命館大学国際平和ミュージアム・学生スタッフ