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石崎 祥之 先生(経営学部)

2022.10.01


私の推薦する本

経営学部の教員として、基礎演習、交通システム論、観光システム論などを担当している。
学生諸君から、どんな本を読めばよいのかと聞かれることも多く、講義の中でも参考文献を提示している。
その中から、特にお薦めする本をいくつか推薦することにしよう。


『経営学を「使える武器」にする』(新潮文庫)
高山信彦著(新潮社、2015年)

大学に入学したての1回生から「経営学になじむにはどんな本を読んだらいいですか」と聞かれて推薦した本である。高校生の時に経営学を学んだ学生は少ないだろう。だから大学に入ってとっつきにくいと感じる学生も多い。本来経営学は、具体的な企業名や日常生活にかかわる事象を扱うことが多いので、経済学に比べるとわかりやすいはずなのだが、ここで躓くと後に響くことになる。そこで実際に経営学がどう役立つのかを「解説」してくれる本書を読めばイメージがつかみやすいと思う。また、大学で使われることの多い経営学の教科書の意味もわかるだろう。

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『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』(中公文庫)
戸部良一ほか著(中央公論社、1991年)

『経営学を「使える武器」にする』には「使える武器」というやや物騒なタイトルがつけられているが、経営学の基幹科目である「経営戦略論」も「戦略」のもとをたどれば軍事用語から来ている。
そう、つまり「戦争に勝つ」というはっきりした目標の下に立てられるのが「戦略」であり「戦術」なのである。したがって、高校の歴史で習った(はずの)第二次世界大戦においてなぜ、日本軍が完膚なきまでに米国に敗れたのかを分析することは経営学の学びにつながると思う。タイトルをみると戦争の本に見えるかもしれないが、著者の一人に著名な経営学者が入っていることからもわかるように読み方によって立派な経営学の教科書になりうるのである。

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『一下級将校の見た帝国陸軍』(文春文庫)
山本七平著(文藝春秋、1987年)

経営の答えは現場にあるといわれるが、「失敗の本質」を現場にいた兵士の立場から鋭く指摘しているのが本書である。戦争の記憶が遠のく中で、書籍を通じて実際に従軍した兵士の経験を知ることは重要であるとともに、変革が望まれながらもいまだに完全に精神主義から逃れられているとは言えない日本の企業社会を見直すヒントをこの本から学び取れるだろう。また、戦争において「兵站(へいたん、ロジスティクス)」が重要な意味を持つことも同時に教えてくれる。

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『物流の世界史:グローバル化の主役は、どのように「モノ」から「情報」になったのか?』
マルク・レヴィンソン著(ダイヤモンド社、2022年)

第二次世界大戦において日本が敗れた主因の一つが「ロジスティクス(兵站)」の軽視にあることは『一下級将校の見た帝国陸軍』の中でも指摘されているが、戦時だけでなく、平時においても物流がいかに重要な意味を持ち経済の趨勢に影響を及ぼしてきたのかを歴史的に解き明かしたのが本書の特徴である。コロナによって、世界の物流が滞り、ウクライナ紛争によって生じた物流の混乱が世界経済に波乱を起こしている現在において、戦争の局面と同等もしくはそれ以上に重要なのが「ロジスティクス」であることを知っておくことは大きな意味があると思う。

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『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?:経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)
山口周著(光文社、2017年)

経営学とは「ファクト」を積み上げ「論理」立てることだと教えられることが多いので、このタイトルはちょっと奇異に感じられるかもしれない。経営学はどんどん進化しており、常に新しい考え方を取り入れることが必要になってくる。例えば、皆が論理を重視すればするほど導き出される答えが画一化してしまい、差別化が難しくなるという矛盾に突き当たる。その隘路を抜け出すためには「論理」と「感性」の両立が必要であり、そのヒントが「アート」にあるというのが本書の主張である。
著者は、経営コンサルティングファームにも属していた経験のある人で、その経験を踏まえて新しい経営学の見方を示してくれる。

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『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』
楠木建著(東洋経済新報社、2010年)

経営学は高校までに習わない分野なので、なんかとっつきにくい、難しそうと思われるかもしれないが、我々の生活のあらゆる分野に経営的な考え方が見られ、企業の経営戦略が社会を決めているともいえよう。したがって、企業の経営戦略、とりわけ競争戦略を学ぶことは経営学を学ぶ根幹である。それを例えば、日産はなぜV字回復できたのか、スーパーのイトーヨーカドーとイオンは戦略的にどこが異なっているのかなどをわかりやすく興味深く説明してくれている。内容は高度だがわかりやすく書かれているので、一読をお薦めする。

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『ぼくらの仮説が世界をつくる』
佐渡島庸平著(ダイヤモンド社、2015年)

著者は編集者として『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などのマンガのメガヒットを連発した「伝説の人物」である。その著者が「世の中の動きを察知」し、「仮説を立て」さらに「検証」してゆくことによって成功に導く過程が明らかにされている。著者は文学部卒であるが、経営学的な思考が漫画や雑誌の編集においてもいかに重要かがこの本を読めばよくわかる。

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『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)
マックス・ヴェーバー著(岩波書店、1989年)

経営学は人と企業との「関係」を解き明かす学問であるが、その前提として「人はなぜ働くのか」という課題がある。今のロシアのウクライナへの侵攻はかつての「東西冷戦」の歴史が反映されている。1989年のベルリンの壁崩壊で東側陣営は「崩壊」したといわれたが、その結末を導いたのが「働くこと」に重きを置くプロテスタンティズムである。学問の基本がその起源にさかのぼることにあるとするならば、硬い内容ではあるが、その答えの一端に応えてくれる本書を一読することは意味があると思われる。

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最後になるが、最近はあらゆる情報をネット経由で得る学生が多い。確かにネットは情報の更新性や即時性という点では優れているが、その反面、あふれる情報を取捨選択し、判断につなげるためには「情報を読む力」が不可欠である。そうでないとあふれる情報に振り回されるだけでかえって判断を誤ることになる。その「見る目」を養うために読書は今でも最有力な手段であり、さまざまなことを「考える」力をつけることが、大学における最大の目標であることを考えれば、この時期にできるだけ多くの書籍に接し、判断する力を養ってほしいと思う。