安井 大輔 先生(食マネジメント学部)
2025.01.6
①『フードスタディーズ・ガイドブック』
安井大輔編、 (ナカニシヤ出版、2019年)
食べること、それはいっけん当たり前で些細なことのように感じられるかもしれません。しかし毎日の「食」は、生活や健康といった身近なことから、政治、経済、外交、環境、エネルギーだけでなく、資本主義のからくりや、格差、貧困といった問題ともつながっています。食は身体や文化や環境などを考える上で欠かせない本質的な営みであり、現代の諸問題を複眼的な視点から総合的に理解するべき、学際的な研究対象です。
本書は、社会科学、人文学の分野における、すぐれた食に関する研究(フードスタディーズ)の文献を紹介する日本初の総合的ブックガイドです。食の文化、食と社会の関係とはそもそもどのようなものかという根源的な問いかけから、食べるものと食べることの歴史、食をめぐる思想、そして現代における食の危機まで、食について考えるうえで欠かせない49冊を徹底紹介しています!
料理・食材の由来を知りたい方、体重が気になる方、食の安全が心配な方、・・・・・・本書は、みなさまの広い関心に応える文献を集めています。本書は、日々の生活からグローバルな問題まで、食にまつわるさまざまを深く掘り下げた傑作をそろえたメニュー一覧であり、その作り方を記したレシピ集なのです。この機会に食研究の奥深い味をぜひ一度ご賞味くださいませんでしょうか。本書で気になる一品が見つかったら、ぜひごいっしょに召しあがってください。
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②『入門食と農の人文学』
湯澤規子、伊丹一浩、藤原辰史編著(ミネルヴァ書房、2024年)
いまは、食や農についての人文社会科学の研究もさかんですが、かつてはそうではなく、現在教員として働いている私たち食の研究者も、食や農をテーマにどのように学習や研究を行うことができるのか、手探りで試行錯誤していくしかありませんでした。
本書は、食や農をテーマとして各分野で活躍する研究者が、自身がどのように研究領域を切り開いていったのか、自身の経験やプロセスを解説するものです。読者は研究者の体験記を通じて、食と農をめぐる多彩な研究テーマや分野を知ると同時に、研究資料にはどのようなものがあり、分析に際してはどのような留意点があるのか、フィールドワークではどのような問題に直面し、一方どのような醍醐味があるかなど、調査研究の経験を共有することができます。
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③ 『テーマで探究世界の食・農林漁業・環境』
『1 ほんとうのグローバリゼーションってなに?』池上甲一、斎藤博嗣編著(農山漁村文化協会、2023年)
『2 ほんとうのサステナビリティってなに?』関根佳恵編著(農山漁村文化協会、2023年)
『3 ほんとうのエコシステムってなに?』二平章、佐藤宣子編著(農山漁村文化協会、2023年)
グローバリゼーション、サステナビリティ、エコシステムといった、重要とは思われつつも多くの人が標語として以上にはあまり理解されていないテーマを、深めることのできるシリーズ。
身近な衣食住と農林漁業、環境や社会とのかかわりについて、「当たり前」と思われていることが、実は事実を正しく反映していないことがたいへん多いのです。その思い込みを本当はどうなの?と問い直すことで、事実に即してより深く考えることをめざす、中学・高校生向けの探求学習用に編まれたものですが、大学での食や農の学習にも適任だと思います。
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④ 『被差別のグルメ』
上原善広著(新潮社、2015年)
大阪の被差別部落出身に生まれ育ったノンフィクションライターが、アメリカ・ブラジル・ブルガリア・イラク・ネパールを旅して、差別を受ける人々が生み出したその土地に伝わる「被差別の食卓料理」を味わってきた記録を残したものです。
本書で紹介されるのは、なまず、ザリガニ、豚の内臓(フェジョアーダ)、はりねずみ、死牛などであり、一風変わった食材です。これらを食べざるをえなかった人びとの営みを鮮明に描き出すことで、食卓に並び料理が差別の歴史として映し出されます。食文化を記述するには、かくありたいと思わされる作品です。
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⑤『反逆の神話』
ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポター著(NTT出版、2014年)
大学生ともなれば資本主義の害を説く言説に触れることもあるでしょう。「若者は体制にサブカルチャーで対抗!」的なことをおっしゃる先生方もおられるかもしれません。しかしそうした文化活動こそが資本主義的「商売」だとしたら?実際、反体制・反消費主義の象徴とされたパンクもヒップもエコも(今ならエシカルも)、ビッグビジネスとして大量消費されてきた現実があります。
本書では、こうした諸現象をオルタナティブな対抗文化と持ち上げ、社会問題を放置してきた文化左翼を痛烈に批判します(映画・音楽・文学などをただ批評するだけの行為は狭い卓越化の欲望にすぎず、いまや無用どころか有害なのだと)。文化を論じるものとしては、こうした批判を受けとめて何をすべきかを考えなければなりません。大学のセンセイの言うことに眉につばつけて聞くためにお勧めします。
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⑥『オルター・ポリティクス』
ガッサン・ハージ著(明石書店、2022年)
レバノン出身でオーストラリアに移住し、現在、中東と豪州、そして欧州を行き来する人類学者による社会理論の書。多文化主義、レイシズム、ポストコロニアリズムについての研究が有名な著者の、実にクリティカルな論考を集めたものです。こうした問題に向き合うとき、人は往々にして、二分法的な議論に「落ち着いて」しまいます。しかしそうした思考法では、解決などしないことはもちろん、戦いが必要だとしても、抑圧や支配を被る人々がいかにして抵抗のみにとらわれることなく、人間らしい生を営むことが可能なのか、というより現実的な問題をも見落としてしまうのです。
本書は、このような従来通りの敵対味方というわかりやすいアンチの思考法にとらわれないようにする、オルタ(もうひとつの)な思考法へと開いていくための希望の道について、パレスチナをはじめとした世界各地の現場を通して唱えています。これは、敵/味方の二分法が行き渡り、いたるところに他者を悪魔化する現代世界では困難な道です。しかし、アンチ/オルタの「どちらか」ではなく「どちらでも」生きられる自由の領域を模索すること、これこそが真に批判的な思考の実践なのです。
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⑦『百年の孤独』
G・ガルシア=マルケス著(新潮社、2006年)
世界にラテンアメリカ文学ブームを巻き起こしたすごい小説。本格焼酎の名前ではありません。こちらが先です。南米の国コロンビアの辺境のマコンド村を舞台に、呪われたブエンディア一族の栄枯盛衰、そして滅亡までの百年を描いています。十九世紀から二十世紀にかけてのコロンビアのけっこう血なまぐさい歴史のなかで、摩訶不思議な出来事(死んだ瞬間、村中の花が咲いたり、シーツに乗って昇天したりする)と、喜怒哀楽の激しい人物たちの情熱と暴力の応酬が繰り広げられる長編小説。けっこう分厚い大長編ですが、何が何だかわからないけどとてつもなくすごいことが次から次へと起こり、息つく暇なく私は二日で読んでしまいました。
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⑧『農業がわかると、社会のしくみが見えてくる』
生源寺眞一著(家の光協会、2018年)
とても易しく、本当にわかりやすく、誠によくできた農業経済学のテキストです。農業や食料の問題について関心はあるけれど何も知らないという方は、まずこれを読むといいと思います。高校の授業形式で、世界の食料、日本の農業、毎日の食生活のつながりが、スカッと見張らせるようになります。農業はその国に食料を提供するだけでなく、自然環境や土地の改善にも関わっているという、農業に限られない「農」の広く深い世界の豊かさが、しっかりとしたデータ分析と著者のやわらかい語り口でビシバシ伝わってきます。
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⑨『日本の食と農の未来』
小口広太著(光文社、2021年)
生源寺先生の本で、関心をもって、もし少しでも農に関わってみたいという気になった方は、こちらをどうぞ。高齢化と過疎化で青息吐息の日本の農業(と海外依存の食料)の将来は楽観できるものではありませんが、地域貢献を志しての移住者やUターン者も、決して少なくはありません。食と農の「つながりの再構築」という視点に立ち、多様な農と農業の担い手を育て、食と農をつなぐ仕組みをつくる持続可能な食卓の姿を、豊富な事例とデータに基づき考えていきます。著者自身、農家の出身で、実際に農に深くかかわっておられるため、主張される「等身大の自給」の説得力がはんぱないです。
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⑩『家事の政治学』
柏木博著(岩波書店、2015年)
社会科学の研究では、一般に家事とは、性別役割分業として女性に一方的に負担を強いるものとして問題化されているのですが、実際には時代とともに変容してきたものでした。本書は、近現代のアメリカ、ドイツ、日本における「家事」労働の理想とイメージについて分析したものです。家事の変容過程は、家政学の成立・普及とパラレルであり、建築やデザイン、住宅政策とも軌を一にしていました。国家、性差、貧富やさまざまな「権力」と家庭空間がいかに関わってきたのかをつまびらかにします。近代のさまざまな問題は、家事と台所で政治と交錯していたのです。合理化・普遍化を求める家政学とあいまって、家事は機械化・商品化される方向に進みましたが、結局のところ、いまでも多くの家事は無給労働として女性が担当しています。初版1995年の著作ですが、記述がまったく古びておらず、その事実が問題の根深さを感じさせるところも含め名著と言えます。
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⑪ 『虎よ、虎よ!』
アルフレッド・ベスター著(早川書房、1978年)
SF(サイエンスフィクション)では一番好きな作品です。私はマニアックな漫画が好きなのですが、図書館には置けないらしいのでこちらを挙げておきます。大宇宙を舞台にした超能力バトルもの。顔に絵の出る狂乱の主人公をはじめ、誰もかれもキャラの濃い登場人物が入り乱れて、怒涛のスピード感としびれるセリフの数々を打ち出しつつけます。文字通り文字がぶっとぶ作品です。何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…と思わず言いたくなります。まあ読んでみてください。
本書は、あまりのぶっ飛び度で読者を選ぶそうですが、私には大衝撃の大傑作でした。
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⑫ 『やし酒飲み』
エイモス・チュツオーラ作(岩波書店、2012年)
アフリカ文学という未知の領域を知ることができた作品。知るというより、ぶつかったという方が正しい表現かも。やし酒を飲むしか能がない男が、死んだ専属やし酒造りの名人を探し、異世界への旅に出るというお話。道中でおかしな生物と出会ったり、危機を乗り越えたりします。文体が途中で変わったり、死んだはずの人がまた出てきたりする。筋がありそうで、ないようなあるような、ブッ飛んだ展開。昔話や民話、神話といった世界の核にありそうな、人類の奔放な想像力を知らしめてくれる。荒唐無稽な展開の裏には〇〇の世界観があって、という解説もとても有益ですが、小説とか文学なんぞに詳しくなくとも普通に面白いです。
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⑬ 『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』
中原昌也著(河出書房新社、2000年)
小説の才能に満ち満ちているにもかかわらず、小説が大嫌いな人の短編集。というより断片集かな。近くにいたくはないけどつかず離れずの距離で見ていたい、と思わせる人間性。いい人の作品はつまらないんですよ、ではいい作品の作者とは?(反語)でもそこが文学というものですよ、本当にカッコいい!めちゃくちゃだけど、よく練られたうっぷん晴らしというのは、すばらしいものですね!
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