本田 豊 先生(政策科学部)
〔1〕『再び、立ち上がる! : 河北新報社、東日本大震災の記録』
河北新報社編集局著(筑摩書房、2012年)
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〔2〕『3.11複合被災』
外岡秀俊著(岩波新書、2012年)
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〔1〕は東日本大震災発生後「河北新報」に掲載された記事を加筆修正して一冊にまとめたものである。被災者に寄り添うという一貫した取材姿勢を堅持し、震災後の悲惨な状況、悲しみや困難から何とか立ち上がろうとする人々の姿などについて、臨場感のある記述が丹念に集約されており、読む者の心をゆさぶる。〔2〕は、東日本大震災で何が起きたのかをできるだけわかりやすくコンパクトに若い世代に伝えることを目的として執筆されている。例えば、「第7章放射線との闘い」では、内部被ばくと除染に関する専門研究者間の論争内容が要領よくまとめられている。学生の皆さんは、両書が提起している震災後の多様な問題や課題から自分の関心事を引き出し、学問の対象として是非深めていただきたい。
『内部被曝の真実』
児玉龍彦著(幻冬舎新書、2011年)
福島原発事故発生後の放射能対策のあり方をめぐって、2011年7月衆議院厚生労働委員会「放射能の健康への影響」で、参考人を招聘して集中審議が行われたが、本書は、その時著者が参考人として述べた意見説明と質疑応答を採録したものである。著者の参考人としての意見陳述はユーチューブでも大反響となり、その後の政府の放射能除染推進のきっかけをつくった話題の書でもある。著者は、今回の放射能事故による健康被害はたいしたことないという当時の政府見解に「満身の怒りを表明する」としている。本書では、内部被曝が、細胞分裂をするときのDNA異常がもたらすガン発生の可能性、とくに、妊婦の胎児や幼い子供たちの「成長期の増殖盛んな細胞」にたいする放射能障害の危険性を警鐘している。今回の原発事故にともなう放射能と除染問題を考えるうえでの基本文献のひとつである。
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『「原発避難」論 : 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』
山下祐介, 開沼博編著(明石書店、2012年)
本書は、社会学分野で研究活動をおこなっている大学院生を中心とする若手研究者が、福島原発事故で避難を余儀なくされている人々への丹念な聞き取り調査をもとに、現在進行中の未曽有の原発避難の実態や今後の事態打開の方向性などについてまとめた意欲作である。本書の成熟度はまだそれほど高くないと思われるが、原発避難の全貌がまだ見えない段階で出版した意義について、事態打開のためにも現段階で情報共有することの切実さを強調している。本書では、「セカンドタウン」構想が避難問題収束の基本的方向性になるのではという問題提起を行うなど若手研究者らしい議論が満載である。聞き取り調査や参与観察などでえた一次資料をどのように料理をするかという面でも本書は大変参考になる。
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『ポスト3・11変わる学問 : 気鋭大学人からの警鐘』
河合塾編(朝日新聞出版、2012年)
本書は、将来を担う若い世代を読者対象として、「3.11」を経験し、それ以降自らの研究姿勢や研究関心がどのように変わっていったかについて、気鋭の34人の大学人に執筆してもらい、エッセイとしてまとめたものである。そこで共通するのは、現実問題との接点を重視した学問の発展の重要性や学生が学びを現実問題に転換する能力の醸成に期待している点である。本書から私自身も多くの刺激を受け、勉強させてもらった。
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『大災害と復旧・復興計画』
越澤明著(岩波書店、2012年)
本書は、幕末から戦前までの大火、関東大震災、戦災、阪神淡路大震災、明治・昭和の三陸津浪とチリ地震など日本が繰り返し体験した大災害から、どのように立ち直ってきたかという復旧・復興計画の概要とその検証結果をわかりやすくまとめたものである。今回の東日本大震災との関連で注目すべきは、第5章で、明治・昭和の三陸津浪による被災から立ち直るための復興計画の策定と実施プロセスが詳細に説明・検証されている点である。当時の復興計画には、多様な知恵が散見され、今回の復興計画策定にも役立つものがおおいにあると思われる。もし大災害によって被災した場合どのように復興するかという「事前復興計画」の重要性が話題になっているが、現在進行中の復興計画とその実施過程についてもしっかり検証し、歴史的な記述として残すとともに、「事前復興計画」に生かすことが強く望まれる。
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『災害復興と居住福祉』
早川和男, 井上英夫, 吉田邦彦編(信山社、2012年)
生活の基盤である住居、公園や老人ホームに代表される生活環境や福祉施設など日常的な「居住福祉資源」こそが、防災や復興に決定的な役割を果たすこと、大災害からの復興対策の要は、住宅再建にあると主張することが、本書を貫く論点である。特に、片山善博鳥取前知事の「鳥取県西部地震に学ぶ居住の大切さ」(第7章所収)は、2004年の講演記録であるが、自らの試行錯誤の体験に裏打ちされた政策提言であり、今回の大震災の復興の基本方向性を示すような説得的議論が展開されているのが印象的である。
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『大災害の経済学』
林敏彦著(PHP研究所、2011年)
本書では、著者自身が、1995年の阪神・淡路大震災発生後、兵庫県復興計画策定調査委員会などに参画してえた知見をもとに、災害復興のありかたに関する多面的問題点を抽出して論述している。阪神淡路大震災発生後10年間の経済復興のプロセスを丹念に検証し、都市経済の復興政策の主眼は人口回復であること、公共投資に依拠した復興政策は復興の切り札にならないこと、人口構造の変化に対応した産業構造に転換する必要がありそのための民間資金動員が重要であること、などを強調し、「創造的復興」の必要性を主張することが本書の主眼のひとつである。
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『震災復興 : 地震災害に強い社会・経済の構築』
佐藤主光, 小黒一正著(日本評論社、2011年)
本書では、震災復興の課題を整理し、復興にむけた基本方向性として「8カ条」を提起しているが、特に、課題整理に関わっていくつかの特徴がある。例えば、被災者支援は災害時という非常時のシステムであるが、本来は平時のセーフティネットのシステムに組み入れる必要性があるとしている。また、「被災者支援が真にそれを必要とする被災者に行き渡らないエラー」、「自助努力で生活再建できる被災者まで救助するエラー」という「被災者支援の2つのエラー」への対応が課題として残されていると述べている。さらに、非常時に対処するための財源確保のためには、平時の財政の優先順位を確定して非常時を平時に組み込んだ財政運営の重要性を強調している。
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〔1〕『列島強靭化論 : 日本復活5ヵ年計画』
藤井聡著(文藝春秋、2011年)
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〔2〕『欺瞞の構図 : 震災復興』
原田泰著(新潮社、2012年)
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〔1〕では、日本において巨大地震が発生するのは今後とも不可避であるから、今回の大震災を契機に、強固さと柔軟さの両方を兼ね備える「強靭(レジリエンス)な日本列島」をつくることが必要であり、そのことが、デフレ状態にある日本経済の復活にもつながると主張する。その切り札は公共投資であり、公共投資拡大の財源を国債発行でまかなったとしても、景気の回復や日銀の適切な国債管理政策で十分対応可能であるとしている。他方〔2〕は、過去の震災復旧対策費には多くの無駄な部分があり、今回の震災関連復興予算19兆円も、被害総額の過大評価があり、もっと安上がりで効果的な復興政策が可能であるとしている。〔1〕は拡大的財政政策によって、〔2〕は縮小的財政政策を主張し、経済復興政策の対立がみられる。両書とも議論に粗さがみられるが、経済復興政策をめぐる対立の根拠を理解するうえでは、両書の併読がおもしろい。
〔1〕『東日本大震災の「現場」から立ち上がる』
著関満博編(新評論、2012年)
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〔2〕『食糧危機にどう備えるか : 求められる日本農業の大転換』
柴田明夫著(日本経済新聞出版社、2012年)
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〔3〕『反TPPの農業再建論』
田代洋一著(筑波書房、2011年)
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〔4〕『漁業再興と担い手育成 : 日本一の養殖産地・宇和海からの提言』
鶴井啓司著(創風社出版、2011年)
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被災地域の多くは、震災前から人口減少がみられ、地域経済の衰退がおおきな問題であったが、今回の震災によって一層の人口減少により地域衰退に拍車をかけるのではないかという危機意識が被災地域の共通認識である。人口減少を最低限にとどめるためには、地域産業の再生・振興によって、就業機会をいかに地元で確保するかが決定的に重要である。特に、今回の被災地域の多くは、農業・水産業を基幹産業として地域経済を支えてきており、これまで衰退産業としてみなされていた農業と水産業を再生するのみならず強い産業として育成することがもとめられている。 〔1〕は、被災地の地域産業研究に長年携わってきた研究者や政策担当者による地域産業復興の現状報告であるが、生産者が直接消費者と取引をする「B to C」型ビジネスモデルに活路を開いている事業所の再建が早いこと、中小企業向け資金調達の新しい動きがみられるなど、多くの知見が散見され、今後の地域産業復興政策を考察するうえでの貴重な情報を提供してくれる。 〔2〕は、現在「食糧争奪第2幕」が切って落とされ、日本の食糧危機は現実性を帯びており、日本の農業政策は生産調整から生産拡大の方向性に転換し、農業の抜本的改革を推進すべきであると述べている。そのために、今回の震災やTPP参加などを契機としたショック療法で増産体制システムを構築することが必要であるとしている。 〔3〕は、日本の農業の基本的方向性を示す政策は、遅ればせながら、農業者の生活保障を目的とした「農業政策」から、食料の安定供給による食料自給率の向上をめざす「食料政策」に移行したと述べている。その上で、食料自給率は、分母が国内消費、分子が国内生産であるが、少子化が進む中では、分母が小さくなって自給率が上昇するという「後ろ向きの自給率向上」に陥る可能性を指摘する。「前向きの自給率向上」は、分母も大きくなるが分子がそれ以上に大きくなる状態であり、そのためには生産者と消費者の連携した取り組みが不可欠としている。TPPに参加すれば輸入増は不可避となるが、それがなぜ自給率を高めるかという素朴な疑問に答えていないと述べ、TPP参加には否定的である。 〔2〕と〔3〕は、日本の農業政策転換の必要性については共通認識をもっているが、その推進力を「危機意識」とするか「生産者と消費者の連携強化」にもとめるか、大きな相違があり、被災地の農業復興のありかたについても、この相違によって混迷の度を増す可能性が危惧される。 被災地域の多くは、水産業も基幹産業であるが、特に養殖漁業が壊滅的打撃を受ける一方、震災前から後継者問題をはじめとする水産業の危機が叫ばれていた。養殖漁業の再生と後継者問題の同時解決のため知恵を絞る必要があるが、その際〔4〕でしめされた取り組みは大いに参考になると思われる。
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