桂島 宣弘 先生(文学部)
『共産党宣言』
マルクス・エンゲルス共著、大内兵衛・ 向坂逸郎共訳(岩波書店)
近代資本主義の生成の原理を説いた古典的名著。19世紀~20世紀の世界に最も衝撃を与えた書物の一つといってよい。マルクス主義はソ連・東欧の崩壊と共に影響力を失ったとされるが、国際的金融危機のただ中にある今こそじっくり読み直したい。「格差」「貧困」を資本主義の原理から考えるための出発に位置づけられる一書だ。
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『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(上)(下)』
マックス・ウェーバー著、梶山力・ 大塚久雄訳(岩波書店)
西欧で資本主義が勃興した思想的背景をプロテスタンティズム=カルバニズムの禁欲精神との関連で解き明かす。日本でもこの視点から近代化のメカニズムを解明する研究が登場するほど(ベラ-『徳川時代の宗教』など)、大きな影響を与えた名著である。合理主義的近代人=資本主義の下にある人間像を反省的に捉えるためにも重要な書だ。
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『日本社会の歴史(上)(中)(下)』
網野善彦著 (岩波書店)
岩波新書で読める日本通史だ。陸ではなく海洋から、定住民=農民(「有縁」)ではなく移動する民(「無縁」)から、一国史ではなく東アジアから日本の歴史を捉える網野史学の特質が余すところなく示されている。とかく一元的に捉えられがちな日本文化を多元的・複眼的に知る上でも一読をお勧めしたい。
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『「鎖国」という外交』
ロナルド・トビ著(小学館)
長い間、鎖国=国際的孤立で説明されてきた江戸時代像を根源から打破する一書。鎖国が西洋から捉えられた日本像であり、「脱亜」の近代から遡及して江戸時代を見たものであること、江戸時代は東アジア世界の一員として、中国・朝鮮との豊かな交流の中にあり、経済的にも深く繋がっていたことが明らかにされる。何故こうした東アジアからの視点が後景に退いて江戸時代が捉えられるようになったのか、今なお西洋中心に世界や日本を捉えがちなわれわれを反省するためにも重要な一書だ。
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『近代天皇像の形成』
安丸良夫著(岩波書店)
明治維新とは何であったのか、何故日本の近代国家は天皇制という形態を取ったのかを、江戸時代の思想・意識状況から歴史的に解明した名著だ。内外危機の中で権威主義的原理や宗教的コスモロジーがどのように勃興・変容していくのかを克明に説き明かす。民衆思想史研究の第一人者ならではの、民衆への目配りも特徴的だ。2007年には岩波現代文庫版が出ている。
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『オリエンタリズム(上)(下)』
E.W. サイード著、今沢紀子訳(平凡社)
西洋が非西洋社会を表象し支配する様式を、西洋の文献学・心理学・美学・地誌・社会誌などを渉猟しながら明らかにした大著。学問による表象・分類・配置が、われわれの思惟様式を拘束していくことも示されており、近代学術の構造にも迫る。西洋化=近代化に邁進した日本も、こうしたオリエンタリズムに深く蝕まれていったこと、それがどのようなトラウマを与えることになったのかも考えさせられる。
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『日本とアジア』
竹内好著(筑摩書房)
西洋化=近代化とは別のコースの可能性をアジア=中国から考えた竹内好の評論集だ。魯迅研究者で、かつ戦前期にはアジア主義者でもあった著者の問題提起は、それ自体が戦前~戦後の同時代的体験談となっており、戦後も西洋化をアメリカ化として歩み続けてきた日本を反省的に捉えるための好著といえる。いち早く戦争責任の問題を提起したことは、戦後もアジア主義を思想的基盤としてきたことと並んで、今なお異彩を放っている。
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『植民地近代の視座 : 朝鮮と日本』
宮嶋博史 [ほか] 編(岩波書店)
近代とは植民地支配を不可分のものとしていた。日本の近代化の場合は、アジア・朝鮮を植民地化する衝動と分かちがたく結びついていたが、植民地の側も近代を受容することでその支配をヘゲモニー的に受容していくことになる過程が歴史的に解明されている。植民地近代性論という現在論争になっている方法的視点、さらには日韓のナショナリズムの克服の方途など、ホットなテーマについて日韓人文学の共同作業の上で問題提起している。
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『オリエンタリズムの彼方へ : 近代文化批判』
姜尚中著(岩波書店)
サイードの『オリエンタリズム』を受けて、近代日本の学術が今度はそれをどのように受容し、アジアを支配する様式へと転換させていくのかを示す。日本の東洋学・植民地政策学が、オリエンタリズムに深く影響されていること、戦後もそれは継承されていることを明らかにしている。在日韓国人ならではの鋭い問題提起からも学ぶところが多い。2004年には岩波現代文庫版が出ている。
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『日本の思想』
丸山真男著(岩波書店)
日本の思想的特性を西洋思想との比較で分析。「『であること』と『すること』」など、高校の教科書で取り上げられた内容も所収。『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『戦中と戦後の間』などで詳細に分析された思惟構造論を平易に書き直したもの。丸山については、その近代主義が批判されているが、「連続的思惟から非連続的思惟へ」「自然から作為へ」などのフレームは、今読んでも説得的だ。戦後思想界に与えた影響も絶大で、その意味からも読んでおきたい一書だ。
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『朱子学と陽明学』
島田虔次著(岩波書店)
東アジア文化の基底にある儒学・朱子学・陽明学の哲学を平易に解説した古典的名著。朱子学的理気論・形而上学から修養論・政治論に及ぶ体系、陽明学への転回などを理解するための入門書だ。現代の中国・韓国・日本の思想・文化を理解するためにも是非知っておきたいことが分かりやすく説明されている。
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『定本想像の共同体 : ナショナリズムの起源と流行』
ベネディクト・アンダーソン著、白石隆・ 白石さや訳(書籍工房早山)
近代~現代を席巻するナショナリズムの歴史的経緯を考えるための古典的名著。民族=ナショナリズムが近代以降に形成されたという視点が明確で、前近代にその萌芽を認めるA・スミスらとは一線を画す。ことに、出版資本主義の成立による口語言語の普及が、国家・民族・ナショナリズム形成に決定的な役割を果たしたとする論点は説得的だ。定本には、全世界で刊行された同書の序文も載っている。
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『「宣長問題」とは何か』
子安宣邦著(筑摩書房)
日本のナショナリズムは、本居宣長が何度も繰り返しふり返られることによって強化されてきたことを説き明かす。宣長が繰り返し論ぜられ、その学術的価値が評価され続けてきたことを著者は「宣長問題」と名づけた。すなわち、宣長がナショナリストであったというよりも、むしろ宣長を高く評価してきた近代から現代に至る学術知こそが、むしろ日本のナショナリズムの形成・定着に大きな影響を与えたということだ。ちくま学芸文庫版は、私が「解説」を書いているので、「子安思想史」についてはそれを参照されたい。
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『ナショナリズムの由来』
大澤真幸著(講談社)
社会学の視点からのナショナリズム論だが、哲学・思想史学・経済学などを渉猟した著者の卓抜した知識に圧倒されるはずだ。現在までのナショナリズム論の文献も沢山載っているので参考になる。なかなかの大著で読みにくいところもあるが、前近代の帝国(東アジア帝国など)の意識がナショナリズムに埋め込まれていること、ナショナリズムは普遍主義=グローバリズムの発展と共に成立したものなので、決して普遍主義によっては乗り越えられないことなど、その主張には考えさせられることも多いはずだ。2007年度に私の大学院ゼミで精読・検討した書物である。
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『自他認識の思想史 : 日本ナショナリズムの生成と東アジア』
桂島宣弘著(有志舎)
最後に最新自著の宣伝も。自己像・他者像が表裏のものであること、自国史=一国史という歴史叙述は江戸時代までは存在しなかった近代の新しい歴史叙述の様式であることを明らかにし、昨今の「教科書問題」に及ぶ。東アジアでの学術交流を積み重ねることで、東アジア人文学の可能性を展望している。
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