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三須 祐介 先生(文学部)

2021.03.01

20世紀の中国において庶民に寄り添った文化のひとつに伝統劇があります。「伝統」というと古めかしいイメージですが、実は当時最新のメディアである映画や近代劇の影響も受けたポップカルチャーとしての側面も強いのです。このような伝統劇から近代とは何かについて考えています。また性的少数者を描いた戦後台湾文学も研究しています。日本の植民地であった台湾ですが、戦後も厳しい政治的抑圧のなかに置かれていました。社会の周縁におかれた性的少数者が文学のなかでどのように表現されてきたのかを考えています。大きな歴史からこぼれ落ちる庶民の文化や周縁の人々に注目することで広がる世界の景色は、想像以上に美しく豊かなのです。


『植民地を読む:「贋」日本人たちの肖像』
星名宏修著(法政大学出版局、2016年)

台湾は半世紀に亙って日本の植民地だった。植民地経営は「日本」や「日本人」の境界を膨張させてゆくと同時に、「日本人」のなかに差別の意識も醸成されてゆく。差別や境界に翻弄された植民地の人々の声を、文学やラジオドラマから掬いあげようとする本書は、台湾に対する表面的な「親日」イメージを根本から問い直している。台湾を考えることは、「日本(人)」とは何かを考えることなのである。

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『外地巡礼:「越境的」日本語文学論』
西成彦著(みすず書房、2018年)

台湾も含む世界の「日本語圏文学」という視座をもった本書は、知的な刺激に満ちた壮大な紀行文という趣がある。旅や留学や移民、そして戦争における侵略といった「移動」あるいは「越境」が生み出す文学的営為を、博覧強記の著者が鳥のように軽々と大空を飛びながら俯瞰しているようだ。コロナ禍の現在、この日本語文学の知的な世界旅行を楽しんでみてはどうだろう。

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『中国が愛を知ったころ : 張愛玲短篇選』
張愛玲著 ; 濱田麻矢訳(岩波書店、2017年)

現代中国文学において張愛玲(1920-1995)ほど評価が揺れ動いた作家もいないのではないだろうか。日中戦争期の上海に彗星のように現れた彼女はまだ23歳の若さだった。その後、香港を経て米国に移住した。日本占領下の活躍、「漢奸」との婚姻関係で、長期間忘れられていたが、私が上海に留学していた90年代の半ばにはファンだという学生に多く出会ったものだ。みなさんとほぼ同じ世代で創作を始めた女性が描いた世界をぜひ覗いてみてほしい。

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『上海モダニズム』
鈴木将久著(中国文庫、2012年)

張愛玲が中国文学史で特別な位置付けがされてきたように、モダニズムの文学も主流とはいいがたいかもしれない。だが本書は、実験場としてのモダニズム文学が、近代中国に生きた生身の作家たちによっていかに模索されたのかを確かに描いている。芸能空間の近代化を考えるには近代都市上海のイメージを立体化する必要がある。その意味で同時代の知識人の営みを知ることは刺激的なのである。

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『博覧会の政治学 : まなざしの近代』
吉見俊哉著(講談社、2010年)

近代化は否応なく都市空間の再編を促すものだが、本書が示す「まなざし(視線)」がそれにどのように介在するのかという問題は、とりわけ視覚に関わる演劇や芸能を考えるうえで非常に重要である。博覧会が提供した「世界」をまなざす新しい方法は、学生時代に夢中になった上海の遊楽場や屋上庭園を考えるための有効な補助線となった。「近代」とはなにか、その延長線上に生きるわれわれはどこにいるのか、を考える意味でも刺激的な著作である。

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『男旦(おんながた)とモダンガール:二〇世紀中国における京劇の近代化』
田村容子著(中国文庫、2019年)

中国の伝統演劇において劇中の女性像は広く男性俳優すなわち「おんながた」によって演じられてきたが、それが生身の女性によるものへと徐々に移り変わっていくのは視覚性の時代としての近代の産物と言える。中国演劇における身体やジェンダーの問題を考える上で非常に示唆に富んだ本書は、中国という地域に限定されない「演じる身体」がもつもうひとつの側面をも提示してくれる。そしてそれは私の最近の関心である男性性(男らしさ)とも繋がるものである。

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『男色の景色』
丹尾安典著(新潮社、2008年)

台湾におけるセクシュアル・マイノリティを表象した「同志文学」は、現在の私の主要な研究テーマであるが、美術史を専門とする著者による本書は、「ゲイ」概念が誕生するはるか以前も射程に入れた日本における「男色」の文化史をユニークな視点で描いており、大いに刺激を受けた。LGBTと男色文化の間の連続と不連続の問題を考える上でも示唆に富む。いつか台湾や中国について、こんな本を書きたいと思わせるような魅力的な一冊である。

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『(見えない)欲望に向けて:クィア批評との対話』
村山敏勝著(人文書院、2005年)

「同志文学」研究では避けて通れないのが「クィア」の概念である。英語圏におけるこの概念を台湾では「酷児」として受容し「同志文学」とともに中国語圏で流通し始めている。英語圏文学のクィアなテキスト研究は数あれど、本書ほど啓発を受けた本はない。不可視化されている欲望をいかに掬いだすかだけではなく、そのような研究による欲望の可視化がいかなる問題を孕むのかという視点は、繰り返し立ち戻りたいだいじな問いである。

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『太陽の血は黒い』
胡淑雯著;三須祐介訳(あるむ、2015年)

台湾の戦後史が地層のように積みあがったその上にある「いま」の台北の人間模様が描かれた小説作品である。登場人物は、表面的な繁栄を謳歌できない脱落者か逸脱者、つまりさまざまなマイノリティたちだ。フェミニズム運動にも参与してきた作家の重い経験が反映しているのかもしれない。台湾が歩んできた民主化のプロセスのなかで、それでも周縁化してしまう存在を描き出した本書は、多元社会台湾を考えるためのヒントになるだろう。

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『次の夜明けに』
徐嘉澤著;三須祐介訳(書肆侃侃房、2020年)

「同志文学」作家としても知られる著者の力作で、台湾の戦後史を、ある家族三世代の生きざまを通して描き出している。戦後すぐにおきた二二八事件の被害者の祖父、祖父を見守り息子二人を育て上げた祖母、戦後の申し子のような二人の息子はそれぞれ人権派弁護士と民主活動家となった。孫の世代の青年はゲイであり、台湾の同性婚合法化を予告するかのようなLGBTパレードの描写も含まれる。台湾の現代史そして「いま」を知る上でもうってつけの一冊だ。

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