中村 彰憲 先生(映像学部)
『Convergence culture : where old and new media collide』
Henry Jenkins 著(New York University Press, 2008.)
本書は高度情報社会化した現在におけるコンテンツのクロスメディア展開やコンテンツ消費におけるファンコミュニティ、並びにユーザー参加の重要性について説明している専門書です。インターネットが台頭し、ソーシャルネットワークサイト、ブログ、ポータルサイトでの情報発信の価値が、テレビ、ラジオといった放送媒体や、新聞、雑誌などの紙媒体での情報発信と同様に重要視される時代において、媒体としての優劣よりもそれぞれの特徴を如何に生かしてコンテンツを展開するべきかが説明されています。以上のことから、コンテンツに限らずより幅広い商品やサービスにおけるプロモーション展開の方法を理解するうえでも参考となる一冊です。
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『消費社会の神話と構造』
ジャン・ボードリヤール 著 ; 今村 仁司, 塚原 史 訳(普及版. 紀伊国屋書店, 1995.)
本書は、大量消費という段階を迎え、人々がより豊かになることで、生活必需品などに対する需要が一通り満たされた時代において、人が如何なる事に価値をおくのかを理解させてくれる一冊です。つまり人々はモノやサービスの備え持つ単なる「機能的」なもの以上の何かを求めて「選択」しているということ。本書ではこれを「記号」としています。人が高級感という記号を求めているのであれば、たとえ同じ機能を用いた商品、サービスでも単なる生産価値以上の付加価値を高級ブランドなどに見出すということは理不尽ではないということです。まさに、商品・サービスのブランドが消費者の選択において重要な役割を果たしている現在を先見するような論の展開ですが、同時に現代社会における「消費」の本質を見極めるうえでも重要な一冊と言えるでしょう。
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『物語消費論改』
大塚 英志 著(KADOKAWA, 2012. -- (アスキー新書 228))
本書は、1980年代後半からチョコレート菓子のおまけとして封入された「天使と悪魔」をテーマとしたシールが子供たちの間で大ブームを巻き起こした現象の分析を皮切りに、その他のいくつかの事例とともにまとめあげ、これらを「情報の断片をつなぎ合わせ、物語と世界観を自らの手で構築していく「創作する消費者」の出現」と捉え、「物語消費」と定義したうえで論考としてまとめた著書『定本 物語消費論』をベースに、ウェブの台頭、二次創作の隆盛といった現代の文脈をふまえ新たに書き起こした第一部と、「物語消費」に関する既出のエッセイで本書の趣旨と合ったものを採録した第二部で構成されています。日本における物語消費的行動の起源や、宗教、政治活動と物語消費との関係性など、「物語消費」について更に掘り下げて理解することが出来ます。 クロスメディアや二次及びN次創作、並びにユーザー参加型文化を前提としたコンテンツデザインが非常に重要な位置づけになっている現代において、これらの消費者行動の根底にあるものを理解するうえでも重要な一冊と言えます。
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『動物化するポストモダン : オタクから見た日本社会』
東 浩紀 著(講談社, 2001. -- (講談社現代新書 ; 1575))
本書で特に興味深かったのが「データベース消費」という概念です。ストーリーや世界観などの「物語」そのものよりはキャラクターとしての登場人物、または特定の部位などといった「物語」の構成要素をデータとして集積し、享受の対象とするという消費行動を指しています。本書は既に英語にも訳されており、この概念は「Database Consumption Model」として学術的検証の対象とまでなっています。00年初頭に発売された書籍ながら、そのコンセプトはSNSのタイムラインなど情報が断片となって流動化する現在により多く見られる現象であるため、現代のコンテンツ消費行動を測るうえでも非常に意義のある一冊と言えます。
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『ゲームニクスとは何か : 日本発、世界基準のものづくり法則』
サイトウ アキヒロ 著(幻冬舎, 2007. -- (幻冬舎新書 ; 046))
本書は長年ゲームデザイナーを務め、07年からは立命館大学をはじめ複数の大学で教鞭をとってきたサイトウ氏が、ゲーム開発のディレクターまたはプロデューサーとして培ってきたノウハウを新書としてまとめたものです。優れたゲームUIの本質は、マニュアル無しにすぐに遊べる操作性と、複雑な操作を段階的に理解させるデザインであるというもので、この考え方は他の分野にも応用可能であると提唱しています。
サイトウ氏は、実際に本書執筆後、カーナビ企業をはじめ数多くの大手企業と共同開発でゲームニクスを取り入れたUI開発に取り組んでおり、まさに自身の理論を実証したとも言えるでしょう。この発想は工学的な理論とは違いますが、従来ほとんど示される事の無かった日本的ゲームデザインの暗黙知をこのような形で示したという点でも重要な一冊と言えます。
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『マンガの描き方 : 似顔絵から長編まで』
手塚 治虫 著(光文社, 1996. -- (光文社文庫))
言わずと知れた「マンガの神様」手塚治虫氏によるマンガ制作の知の集大成的位置づけにあるのが本書です。それも「現場で培ってきた知識を惜しみなく共有する」という意図がありありと伝わってくるような徹底ぶりで、キャラクターの描き方から、4コママンガ、そして長編マンガまで、自身が培ってきたノウハウをこれでもかという位公開しています。本書は例外的に私自身が中学生のときに初めて手にした本ですがいまだに持っています。また、「マンガ」としてではなく「モノの伝え方」としても通じる部分も多く、マンガ家を志望していなくても推薦できる一冊です。
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『知識創造企業』
野中 郁次郎, 竹内 弘高 著 ; 梅本 勝博 訳(東洋経済新報社, 1996.)
本書は、日本企業の競争力の源泉とも言える、暗黙知継承のメカニズムについてナレッジマネジメントの第一人者が説いた良書です。昨今においては、日本においてもマニュアル化の波が押し寄せています。たしかに本書においても如何に暗黙知を形式知化するかという点を具体例とともに解説しています。しかし重要なのは、「マニュアル化」で固定してしまうのではなく暗黙知を常時体系化させていくという柔軟性です。SECI Modelと言われるこの概念は、ある暗黙知を共同化-表出化-連結化-内面化というプロセスで個人やチームから組織全体へと伝承していく様を示しています。ポイントは、これはスパイラルなプロセスであるということ。単なるマニュアル化ではなく、職人気質の徹底的な探究心で新たな知を貪欲に追求し、それを組織全体に共有できるというのが日本企業においてイノベーションを創発できた本質なのです。そのような意味では、日本的組織の競争優位性を再考するうえでも重要な書籍と言えます。
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『ストーリーとしての競争戦略 : 優れた戦略の条件』
楠木 建 著(東洋経済新報社, 2010. -- (Hitotsubashi Business Review books))
これまで様々な経営書において、優れた戦略を構築するうえで必要な概念やモデルの提唱がされてきましたが、本書は、優れた戦略における「ストーリー」の存在に注目しています。ここで言う「ストーリー」とは、他社との「差別化」を一過性のものにせず、継続的に「つなげるモノ」のことを指します。そこで重要になってくるのが、競争優位、コンセプト、構成要素、クリティカルoコアそして一貫性といった5つの要素なのですが、コンセプトの如何によって、一見理不尽とも思われる経営判断も正しい判断となりうるという指摘は非常に意義があると感じました。本書で示しているこれらの要素は大学生活における組織運営においても大いに実感出来る内容でしょう。というのも大学におけるクラブや同好会といった様々なシーンにおける決断が論理的帰結によるものになることなど実際にはほとんどないからです。指南書といったものではないですが、クラブやサークル、部活などにおける大局を見る上でも前述の要素をとらえつつ組織としての「ストーリー」を俯瞰することは差別化を測るうえで役立つことでしょう。
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『イノベーションのジレンマ : 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』
クレイトン・クリステンセン 著 ; 伊豆 原弓 訳.増補改訂版. (翔泳社, 2001. -- (Harvard business school press))
簡単に言えば、本書は「ある技術の過去の成功」に縛られた組織はその力で自らを拘束してしまい、結果的に「新たに台頭する技術」への対応に遅れてしまうという組織的な疲弊のメカニズムを解説した書です。ここ数年を見ても、液晶テレビ、オーディオ機器、デジタルゲーム向けハードウェアそしてITサービスなどにおいて似た様な事が繰り返されています。まだ検証は進んでいないものの、こういった人為的理由による企業ならびに産業構造の新陳代謝的状況はかなり広範囲で見受けられるのではと感じています。そのような意味で、本書は技術革新に関する書であると同時に、組織というものは本質的には人と人との信頼関係がその根底にあり、 時によっては、そのような信頼関係も諸刃の剣と成りうることを示しています。
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『フラット化する世界 : 経済の大転換と人間の未来』
トーマス・フリードマン 著 ; 伏見 威蕃 訳(上, 下. 増補改訂版. 日本経済新聞出版社, 2008.)
ジャーナリストであるフリードマンが、世界各国を巡りながら、世界はグローバル化の波のただ中にあるということを示した一冊です。とりわけ、製造業的な仕事のみならず、従来はホワイトカラーの業務と言われていた電話の応対によるカスタマーサービスやソフトウェア開発サービスなども、低所得の英語園へとアウトソーシングがなされている実情を示している部分は衝撃的です。フリードマンは、こういったビジネスの本格的なグローバル化にともない生き残れる人材は、世界的なポップスターや、スポーツ選手ならびにハリウッドスターのように圧倒的に差別化が計れる一握りの人たちか、地元に根ざしつつ特殊技能が必要である医者、弁護士といった人々であるとし、中間管理職になるには、単に事務処理をこなすのではなく、複数の能力を持つ人材を状況に応じて連携させる力や顧客のニーズを素早くつかみ取ってそれに合致できる部品やサービスの組み合わせが出来るといった能力が求められるようになると主張しています。日本のグローバル化は、英語圏と比較すると遅れているのは否めませんが本書を通して今後如何なることが日本でも起こりうるか、または起きつつあるのかに対する理解を高めることが出来ます。
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