西岡 亜紀 先生(文学部)
2018.03.01
詩や小説はどのようにして生まれるのかというシンプルな問いを、さまざまな視点から探究してきました。主に19~20世紀の日本とヨーロッパの詩や小説を研究対象とし、作家や作品の背景に広がる人や知のネットワークを解明しています。また、絵解き・版画・紙芝居・マンガなど、民衆の文化伝達や言語教育を支えてきた言語コミュニケーション表現の研究も、並行して続けています。そうした研究を土台とし、21世紀の新しいメディア環境における言語表現のあり方やその教育方法を模索しています。
『九年前の祈り』
小野 正嗣 著 (講談社, 2014)
人が生まれてきたことの意味、土地と人々に根ざし生きて死んだことの意味。小説を書くとは、そのことを問い続けること、徴づけることに他ならない。その王道を迷わず貫いているがゆえに本書の「祈り」は胸に響く。2015年の芥川賞受賞作「九年前の祈り」はもちろん、収録作品の一つ「悪の花」も一度読むと忘れられない作品だ。
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『幸福の王子』
オスカー ・ ワイルド 著, 小尾 芙佐 訳 (光文社古典新訳文庫,2017)
何度読んでもなぜか泣いてしまう本がある。おそらく、通俗的な人生では到底手の届かない物語がそこにはあるからだ。すべてを手に入れることではなく他者と分かち合うことの幸福。その価値をともにする存在がある幸福。幼少期に読んだことのある人も、再び「大人」の目で触れて、幸福とは何か、美とは何か、しばし立ち止まって考えてみるのもよい。
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『百年の孤独』
G ・ ガルシア=マルケス 著, 鼓 直 訳 (新潮社,2006)
漫画もアニメーションもゲームも面白いが、小説を読む愉楽には敵わない。大学生の頃に、そのことを確信させられた一冊。「うそのようなまこと≒まことのようなうそ」文字通りマジック・リアリズムにぐいぐい引き込まれる。鼓直の翻訳には独特のリズム感があり、長い作品で文字も小さいのに一気に読めてしまう。本作を経由するかしないかで生涯の小説体験は変わってくるだろう、と言っても過言ではない。
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『記憶のつくり方』
長田 弘 著 (晶文社,1998)
長田弘(1939-2015)の珠玉の散文詩集。結びの言葉が秀逸で、強烈に記憶に残る。「わたしの最初の友人の、わたしは最後の友人だった。」(「最初の友人」)「ひとは大人になって、高さを忘れる。平行になじんで、垂直を忘れる。」(「ジャングル・ジム」)。この結末の冒頭を知りたい人は、自ら手にとって読んでみよう。『長田弘全詩集』(2015)『幼年の色、人生の色』(2016)とあわせて読むと、優しい言葉の背景もわかってきて、なお味わい深い。
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『近代能楽集 改版』
三島 由紀夫 著 (新潮文庫,2004)
古典能を近代能楽としてリライトした8編が収められている。『金閣寺』『美しい星』『仮面の告白』と 三島由紀夫(1925-70)の傑作をあげればきりがないが、それらを凌駕するほど独特の個性を放つ傑作。とくに「弱法師」「道成寺」といった既にさまざまなジャンルでリライトされてきた〈語り物〉の登場人物や舞台を近代の設定に読み替える手腕が鮮やか。同じく戯曲の傑作として海外でも定評のある『サド侯爵夫人』とあわせて読みたい。
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『日本の詩歌:その枠組みと素肌』
大岡 信 訳 (岩波文庫,2017)
大岡信(1931-2017)は、20世紀に日本の詩歌を世界に伝えた最大の功労者の一人。本書は、大岡がコレージュ・ド・フランスで1994-1995年に行った講義の記録。今、大岡ほど確かな古典の理解のもとにグローバルな「ことば」を奏でる詩人が日本にいるだろうか。フランスから「あまりに遠い」日本のうたの心をフランス人に伝える「ことば」を前に、2017年4月に逝った詩人を想う。
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『日本文学史序説 上・下』
加藤 周一 著 (ちくま学芸文庫,1999)
20世紀日本が生んだ知の巨人・加藤周一(1919-2008) が記した日本文学史。世界の学生に向けて書かれ、7カ国語に訳された本書は、世界における日本文学を考えるためには必読。立命館大生は幸運にも、図書館2Fの「加藤周一文庫」や地下の書庫で加藤の蔵書に触れられるという、世界で最も加藤に近い環境にある。没後10年(2018)、生誕100年(2019)に開催されるイベントにも参加しつつ読んでみよう。
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『渡辺一夫 : 1901-1975』
渡辺 一夫 著 (筑摩書房,1993)
研究に迷えば「学者の仕事は、正確な一枚のカードをつくることにある」と戒め、人に惑えば「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」と問う。渡辺一夫(1901-75)の言葉には人生を導く説得力がある。『フランス・ルネサンスの人々』『きけ わだつみのこえ』(編)とともに、若いうちに読みたい。
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『大江戸視覚革命 : 十八世紀日本の西洋科学と民衆文化』
T ・ スクリーチ 著; 田中 優子, 高山 宏 訳 (作品社,1998)
覗きレンズを通してみれば視覚革命の音がする――思わずそんなパロディを唱えたくさせる一冊。著者が江戸時代=鎖国の時代という既成概念にとらわれない外国人だからこそ見えるのだろうか。レンズを通せば、オランダ経由の新しい視覚メディアに興じる江戸の民衆が、その先にかすかに現代のアニメ大国日本が見えてくる。
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『グラウンド・ゼロを書く : 日本文学と原爆』
ジョン ・ W ・ トリート 著 (法政大学出版局,2010)
1945年8月の原爆投下をグラウンド・ゼロとして日本文学を再編するという試み。「他者」の視点のほうが風通しのよいのは、江戸文化だけではないらしい。将来、国際社会で生きたいと考えている人には、ロバート・J.リフトンの『ヒロシマを生き抜く―精神史的考察』(上/下)や『日本人の死生観』(加藤周一・矢島翠との共著)などと併せて、日本に生まれた人間の教養として、読むべき価値のある本である。
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