野口 雅弘 先生(法学部)
1.『職業としての学問』
マックス・ウェーバー著(岩波文庫、1980年 他)
ウェーバーは近代を「合理化」、「脱魔術化」によって特徴づけながら、こうした時代において学ぶ(学問する)ことの意味は何かと問う。専門知識の習得は必ずしも人間を幸せにしない。そればかりかバカにもし、鈍感にもする。彼がいう「明確さと責任感」とは?
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2.『風の歌を聴け ; 1973年のピンボール 』
村上春樹著(講談社、1990年)
1)を読んでみたけれど、よくわからなかった方は、本書冒頭の文章論をサブテクストにして再チャレンジを。世界はあまりに複雑で、混沌としているので、何とか生きていこうとするならば、「ものさし」を必要とする。しかし、それでは測れないものはどうなるのかという問題。
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3.『「名づけ」の精神史』
市村弘正著(平凡社、1996年 他)
2)の登場人物には名前がない。彼らは「鼠」「小指のない女の子」「病気の女の子の姉」「NEBラジオのDJ」などとして現われる。それでは、そもそも「名づけ」るとはどういうことか? そして「名前のない」人物にリアリティを与える「現代の人間の条件」とは?
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4.『ボードレール : 他五篇』
ヴァルター・ベンヤミン著(岩波書店、1994年 他)
「『驚き』が消失した世界を『事実』が埋める」と、3)で市村は書いている。遺稿「歴史の概念について」でベンヤミンは、パウル・クレーの「新しい天使」を読み解きながら、「均質で空虚な時間をとおって歴史が進行するという観念」を問題にする。
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5.『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
マックス・ヴェーバー著(岩波文庫、1989年 他)
4)でベンヤミンが問題にした「進歩」を、ウェーバーは近代資本主義の「鉄の檻」の形成として論じる。彼は資本主義の成立を「合理化」の直線的な進展としてではなく、プロテスタンティズムの宗教倫理との関連で読み解いていく。近代世界の宗教的起原。
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6.『監獄の誕生 : 監視と処罰』
ミシェル・フーコー [著] (新潮社、1977年)
5)に出てくる禁欲的プロテスタンティズムのエートス(精神的構え)によって、古い因習や共同体から個人が解放されたという説がある。これに対してフーコーは「規律=訓練」権力に着目し、「自分」に追い込まれ、「個人化」が強制されていく様を描く。なんと身近なパノプティコン。
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7.『ホッブズの政治学』
レオ・シュトラウス [著](みすず書房、1990年)
私たちが抱く閉塞感は、6)の権力作用と無関係ではない。しかしそうした権力を行使する(陰謀の)主体がいるわけではない。むしろ、安全に、平穏に暮らしたいという私たちの欲望(「ブルジョワ道徳」)がリヴァイアサン的な絶対的な権力を呼び込み、強化するという連関。
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8.『全体主義』(全体主義の起原 ; 3)
ハナ・アーレント [著](みすず書房、1981年)
7)で指摘されているように、「近代」の政治思想は国家(「法」)ではなく、個人の「権利」から出発する。ここで想定されている近代的個人は人びとの〈間〉の空間を破壊し、アーレントが全体主義的な支配に見たVerlassenheit(見棄てられている状況)をもたらしてはいないか?
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9.『フランス社会連帯主義』(連帯の哲学 ; 1)
重田園江著(勁草書房、2010年)
福祉国家の行き詰まりがいわれ、それとともに8)のVerlassenheitが切実な問題になっている。フーコー研究者として知られる著者が、こうした状況において、またこうした流れに抗しながら、フランス社会連帯主義についての思想史的な再検討を試みる。
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10.『人間不平等起源論』
ルソー著(光文社、2008年 他)
9)の連帯について考えるうえで、ルソーに言及しないわけにはいかない。この歴史哲学的著作において彼は虚栄心(他者と比較して自己の優位に喜びを見いだす情念)に注目しながら、文明化の負の側面をえぐる。利己的で、偽善的な自分への嫌悪と、ピュアで、透明な共同性への憧憬。
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11.『現代議会主義の精神史的地位』
カール・シュミット著(みすず書房、1972年 他)
10)のルソーが『社会契約論』で提示したデモクラシーは〈治者と被治者の同一性〉であるとしたうえで、シュミットは決断できない、「永遠のおしゃべり」に興じている(リベラリズム的な)議会制を、デモクラシーの名のもとで否定する。この見事なまでの暴論をどう論破するか?
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12.『滝山コミューン一九七四』
原武史著(講談社、2007年)
扉のことばとして11)の一節を引用して、この本ははじまる。著者自身の小学生時代(1970年代)の「告白」録。「連帯」、理想的な結合の息苦しさ、そしてそれを求めた時代についての考察である本書は、戦後政治史の本であり、思想史の本であり、団地論であり、そして鉄道の本でもある。
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13.『ジンメル・コレクション』
ゲオルク・ジンメル著(筑摩書房、1999年)
デモクラシーとは皆が同じ意見を共有し、同じ方向に進むことなのだろうか? 12)はそうしたディストピアを見事に描いている。ドイツに住むユダヤ人の社会学者だったジンメルは、「よそ者Der Fremde」だからこそ、マージナルな立ち位置だからこそできるコミットメントに光を当てる。
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14.『自由論』
アイザィア・バーリン著(みすず書房、2000年 他)
生と形式の葛藤にこだわった13)のジンメルと同じく、バーリンもジレンマの思想家だ。「自己の砦」に撤退する不毛さと、他者との(透明な)関係を求めることにともなう同一化の暴力。彼はこのジレンマを「消極的自由」と「積極的自由」という二つの自由概念によって描き出す。
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15.『近代 : 想像された社会の系譜』
チャールズ・テイラー [著] (岩波書店、2011年)
14)のバーリンのもとで学んだテイラーは「消極的自由」を批判しなら、近代におけるアイデンティティについての壮大な考察を試みる。彼の問題関心は「宗教的なもの」に接近することになるが、それはウェーバーとどのように切り結ぶか? 本書を読んでから再度1)に戻ってくれる人がいれば、とてもうれしい。
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