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斎藤 進也 先生(映像学部)

2017.03.01


『コンヴィヴィアリティのための道具』
イヴァン ・ イリイチ 著; 渡辺 京二, 渡辺 梨佐 訳(日本エディタースクール出版部 ,1989)

人びとが「共に、活き活きと躍動的に生きること」をイリイチは「コンヴィヴィアリティ」という概念で表現し、これが欠如する現代産業社会を批判した。イリイチの指摘の基本には、諸活動の"専門化"およびそれがもたらす縦割りの社会構造によって、人びとは自律性を奪われ、閉塞感に満ちた生活を強いられているという点がある。「コンヴィヴィアリティのための道具」とは、いわば「自分は専門ではないから無理」という発想から人びとを解放し、ものごとへの主体的関与を促す道具である。初期のコンピュータ技術者やインターネット文化にも大きな影響を与えており、情報社会の在り方を考える上でも有用な文献といえる。

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『スペクタクルの社会 : 情報資本主義批判』
ギー ・ ドゥボール 著; 木下 誠 訳(平凡社, 1993)

消費社会がメディアと結びつき、よくわからない"イメージ"が世の中を覆う状況は、さながら「茶番劇(=スペクタクル)」の様相を呈する。本書が発表された60年代と現在では時代背景が異なるため、インターネットやグローバリゼーションといったものを踏まえて「スペクタクル」概念を捉えなおす必要はあるが、本書が提示するテーマは、英国のEU離脱や波乱の米国大統領選などに代表される現代の混迷状況を考える上で重要性を帯びるのではないだろうか。

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『図の体系 : 図的思考とその表現』
出原 栄一, 吉田 武夫, 渥美 浩章 著(日科技連 , 1986)

昨今、インフォグラフィックスやデータ視覚化に関する書籍が多数出版されているが、1986年に出版された本書は、今なお図的表現を語る上で重要な一冊である。図の歴史、類型、事例などがコンパクトにまとめられ、紹介される図ひとつひとつに的確なコメントが付記されている。人の思考と図の関係を効果的に学べる構成であり、何より見ていて楽しい本である。

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『Information Graphics』
Sandra Rendgen; Ed. Julius Wiedemann(Taschen , c2012)

データの時代といわれる現代にあって、インフォグラフィックス( infographics / Information Graphics)は、新たなクリエイティブな表現として注目を集めている。従来の統計的視覚化などにおいては、あくまでも科学的分析を補完するものとして"視覚化"が捉えられるが、インフォグラフィックスでは遊び心のあるプレゼンテーション表現というニュアンスで"視覚化"を捉えることもあり、その形態は実に多様である。本書は恐らく、現段階で最も充実したインフォグラフィックスの図版集成のひとつだろう。昔ながらのアナログのイラストから、最新のデジタル表現をもちいたものまで美しいインフォグラフィックスが楽しめる。

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『ヒップホップの詩人たち』
都築 響一 著(新潮社 , 2013)

ヒップホップは、いわゆる"struggle(苦闘、苦難)"な状況を好転させるためのアートという側面を持つ。自身のstruggleを"リアル"にリリックに落とし込むラッパーは、"リアル"といわれ、そうでなければ"フェイク"といわれる。著者・都築響一のラッパー選定は素晴らしく、本書に登場するラッパーはいわゆる"リアル"揃いであるため、本書には日本における多様なstruggleが彩り豊かに刻まれている。この彩りが、ヒップホップがstruggleを素材にしつつも決して貧窮問答歌では無く、人間のポジティビティにもとづくアートであることを物語る。TwiGy、田我流、TOKONA-X、ILL-BOSSTINOなど実力派ラッパーがずらりと並ぶが、ここはやはり、京都・向島レペゼンのANARCHYのパートに特に注目したい。

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『ボディ&ソウル : ある社会学者のボクシング・エスノグラフィー』
ロイック ・ ヴァカン 著; 田中 研之輔, 倉島 哲, 石岡 丈昇 訳(新曜社 , 2013)

本書はシカゴのゲットーにあるボクシングジムにおけるエスノグラフィーである。特徴的なのは、著者のヴァカン自身がジムに入会し、シカゴで最も名誉のあるボクシング・トーナメント「シカゴ・ゴールデングローブ」に出場するまでの軌跡が描かれる点である。このエスノグラフィーは、著者自らの身体をベースに展開され、打ち込まれるパンチの痛みや耐え難い疲労感などがフィールドノートに書き込まれる。そうした身体的情報とジムという空間内での対人交流の記録を通じ、ボクサーとしてのエートスの獲得やジムが地域社会で果たす役割が明らかにされていく。社会学の学術書としても、一般の読み物としても楽しめる一冊。

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『Nature of code : processingではじめる自然現象のシミュレーション』
ダニエル ・ シフマン 著; Bスプラウト 翻訳 (ボーンデジタル , 2014)

Processingは、メディアアートの制作などに用いられるプログラミング言語であるが、もともとMITメディアラボでデザインを専攻する学生に対するプログラミング教育用に開発されたという背景もあり、文系・理系問わずプログラミングをはじめて学ぶ際に適している。本書では、そのProcessingを用いて、クリエイティブ・コーディングに必要な物理や数学の基本を学ぶことができる。サンプルコードも良質であり、文系の学生にもお薦めできる。ただし、Processingの基礎文法についての解説はないので、全くの初心者である場合は、他の書籍やWebを通じて先ずProcessingの基本を押さえておく必要がある。

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『虚数の情緒 : 中学生からの全方位独学法』
吉田 武 著 (東海大学出版会 , 2000)

ひとことでいえば、文系の学生にもお薦めできる数学の入門書であるが、実のところ、そうした陳腐なラベルで捉えるには勿体ない希有な教養書である。学問を修めること、知識を深めることの尊さを数学の基本を題材にじっくりと丹念に説く有り難い労作だといえる。同著者による『オイラーの贈り物』も数学の再入門に適した良書であり、お薦めしたい。

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『ゼロから作るDeep Learning : Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装』
斎藤 康毅 著 (オライリー・ジャパン , 2016)

昨今の人工知能ブームにおける核のひとつは、ビッグデータの処理に活用される「機械学習」であり、その中でも、生物の神経系の挙動を模した理論をもつ「深層学習(ディープラーニング)」は応用範囲が広く注目を集めている。本書では、画像認識等に活用される畳み込みニューラルネットワーク等の実装プロセスの解説を通じ、その原理を学ぶことができる。サンプルコードに用いられているPythonは、効率的な記法をもつモダンなプログラミング言語で、科学計算系のライブラリが充実していることもあり、人気が高い。

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『チューリングを読む : コンピュータサイエンスの金字塔を楽しもう』
チャールズ ・ ペゾルド 著 ; 井田 哲雄 [ほか] 訳 (日経BP社 , 2012)

数学者アラン・チューリングが、1936年に発表した論文「計算可能数とその決定問題への応用」の詳細な解説書であり、なかなか読み応えがある。この論文において、チューリング機械という仮想的な計算模型が提示されるが、これはコンピュータにおける理論的な原点だといわれる。本書では、チューリングの半生についての記述も織り交ぜつつ、数学基礎論のコンテキストや抽象機械の解説がなされており一般書として十分楽しめる。

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『現代ゲーム全史 : 文明の遊戯史観から』
中川 大地 著 (早川書房 , 2016)

遊びとテクノロジーと社会文化の異種混交的なジャンルとしてのゲームの展開を実に丹念にまとめた労作である。ゲームの黎明期からポケモンGOまで数多くのタイトル、ゲーム機が登場するが、単なるレビューの羅列ではなく、初期の米国コンピュータ技術者のハッカー的反骨心や日本の開発現場の組織力といった各ムーブメントの原動力となった事がらにまでしっかりと踏み込んでおり、読み応えがある。

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『ブッダのことば : スッタニパータ』
中村 元 訳 (岩波書店 , 1991)

仏教の開祖ゴータマ・ブッダは、その教えについて何も書き残してはいない。ブッダの死後しばらくは弟子達のあいだで口頭伝承によって教えが引き継がれたが、やがて暗唱の便をはかるため、韻文の詩のようなかたちで書き残されることになる。そうした原始仏典のなかでも『スッタニパータ』は最も古いもののひとつとされ、上座部や大乗への展開以前のブッダのシンプルな言葉に触れることができる。インド哲学の大家・中村元による訳には深みがあり、またどこか愛嬌を感じる。

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『吉本隆明が語る親鸞』
吉本 隆明 著 (東京糸井重里事務所 , 2012)

糸井重里事務所のプロデュースにより、ポップな装丁とDVD(吉本隆明の講演音源)付の親しみやすい親鸞本である。吉本流の解釈も含まれるだろうが、人間・親鸞の魅力や仏教者としてどこがイノベーティブだったのかについて、わかりやすく語られる。親鸞は肉食妻帯をする等、仏教のタブーを破りながら、誰にでも「悪」はあり得ること、そしてそれでも如来の光明(阿弥陀仏の智慧)の強力な救済力をもってすれば、浄土にいけると説く。「悟りの宗教」ではなく「救いの宗教」としての仏教が日本に浸透した理由の一端をここに垣間見ることができる。なお本書は、戦後思想界を牽引した吉本隆明の最後の著作でもあるようだ。

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『フランク・ザッパ自伝』
フランク ・ ザッパ, ピーター ・ オチオグロッソ 著; 茂木 健 訳 (河出書房新社 , 2004)

フランク・ザッパは、前衛的な作風で知られるロック・ミュージシャンである。ザッパの音楽は、一見コミカルで音楽をナメているとすら思えるが、よく聴くと深い音楽愛をもって兎に角真面目に作り込まれていることが分かる。本書はザッパの自伝だけあり、当然のごとく破茶滅茶な内容だが、その裏に表現に対する真剣さが見え隠れする。殆どの今の大学生は、ザッパの音楽と無縁であろうが、是非、本書と併せてアルバムも聴いてみてほしい。先ずは、「Hot Rats」「Uncle Meat」あたりがお薦め。

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『贈与の謎』
モーリス ・ ゴドリエ [著] ; 山内 昶 訳 (法政大学出版局 , 2000)

贈与の原理は、経済活動を含むあらゆる社会的コミュニケーションの根本に通じる。すなわち、今も昔も、贈与と返礼のサイクルが社会を回している。贈与論は、マルセル・モースによって個人間、集団間のモノのやり取りの人類学的理論化がなされ、その後、クロード・レヴィ=ストロースによる構造主義的な交換論へと展開した。そして、本書の著者であるモーリス・ゴドリエは、こうした流れを踏まえつつ、両者を批判的に再検討し、交換不可能な「聖なるモノ」への着目を通じて交換の本質に迫る。難解な本ではあるが、ネットの普及で交換の形態が多様化する現代社会を分析する上でも有用な視点を与えてくれる。

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