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田口 道昭 先生(文学部)

 


『文明論之概略』(岩波文庫 ; 青-33-102-1)
福沢諭吉著 ; 松沢弘陽校注(岩波書店、1995年)

古典中の古典。西洋文明と伝統思想の間にあって、どのように西洋文明を学んでいくかを考察した書物。何よりも福澤の思考方法に多くを学ぶことができる。たとえば、第1章「議論の本位を定る事」の冒頭の「軽重長短善悪是非等の字は相対したる考より生じたるものなり。軽あらざれば重ある可らず、善あらざれば悪ある可らず。故に軽とは重よりも軽し、善とは悪よりも善しと云ふことにて、此と彼と相対せざれば軽重善悪を論ず可らず」という文章を味わってほしい。ほかに、「惑溺」や「臆断」、「極端主義」を戒めた文章から多くのことを学べる。『福翁自伝』(岩波文庫)もお薦め。

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『石橋湛山評論集』(岩波文庫 ; 青-33-168-1)
石橋湛山 [著] ; 松尾尊兊編(岩波書店、1984年)

石橋湛山は、戦後、内閣総理大臣になった人物だが、戦前は、『東洋経済新報』を舞台に自由主義的な立場(それも「急進的自由主義」と呼ばれたりした)のジャーナリストとして、植民地放棄の論説を展開したほか、満州事変以降の日本の動きにも絶えず警鐘を鳴らしていた。また、昭和の恐慌時における経済ジャーナリストとしての彼の発言は、日本におけるリフレ政策の原点として今日において大いに学ぶことができるように思う。こちらは、『石橋湛山全集』(東洋経済新報社)で確かめてほしい。なお、湛山は評論家としての出発期に文芸評論も書いている。上田博『石橋湛山 文芸・社会評論家時代』(三一書房、1991年)も併せて紹介しておきたい。

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『日本の思想 』(岩波新書 ; 青版 434)
丸山真男著(岩波書店、1961年)

岩波新書の定番で多くの人が推薦しているが、丸山眞男の著作の中から一冊となれば、やはり本書となる。「『である』ことと『する』こと」は高校国語の教科書で一部分を読んだことのある人も多いだろう。「実感信仰」と「理論信仰」、「文学主義」と「科学主義」、思想における「タコツボ型」と「ササラ型」などの概念から多くのことを学ぶことができる。本書を読み終えた人は、ぜひ『丸山眞男集』(岩波書店)も読んでほしい。

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『昭和維新試論』
橋川文三著(朝日新聞社、1984年)

昭和の超国家主義や日本浪曼派に関する論考で知られる思想家。戦前の青年たちはどのように生きたのか、高山樗牛や石川啄木、日本の青年団を作った田沢義舗、右翼の思想家北一輝などを取り上げ、その社会的地盤や思想的土壌から掘り下げて論じている。なお『昭和ナショナリズムの諸相』(名古屋大学出版会、1994年)も読んでおきたい。『橋川文三セレクション』(岩波現代文庫)、『橋川文三著作集』(筑摩書房)もお薦め。 *版・出版社が異なる資料も所蔵しています。

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『日本思想という病 : なぜこの国は行きづまるのか?』
中島岳志 [ほか] 著 ; 芹沢一也, 荻上チキ編(光文社、2010年)

戦前・昭和の思想を今日的な観点からとらえなおそうとした書物。中島岳志、片山杜秀、高田理惠子、植村和秀、田中秀臣が執筆。保守・右翼・左翼思想にナショナリズム、文系知識人、日本における経済思想などについて学ぶことができる。保守と右翼とは違うという視点や、田中秀臣の河上肇と福田徳三というふたりの経済学者の比較が興味深い。

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『立身出世主義 : 近代日本のロマンと欲望』
増補版 竹内洋著(世界思想社、2005年)

「立身出世」をキーワードに近代日本の青年たちの歴史を概観したもの。社会を分析する際、単なる世代論ではだめで、階層やジェンダー、学校文化をはじめとする文化資本についても考慮にいれなければならない。当たり前と言えば当たり前だが、「おれたちの世代は…」という一括りで言ってしまう語り方は、過去のものなのだろうか。同じ著者の『学歴貴族の栄光と挫折』(中央公論新社)、『教養主義の没落』(中公新書)もお薦め。

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『経済成長って何で必要なんだろう?』
飯田泰之 [ほか] 著 ; 芹沢一也, 荻上チキ編(光文社、2009年)

私がはじめて大学の専任教員となった(立命館には2011年着任)のが1992年でバブルがはじけた年、その後、阪神大震災や消費税の税率アップがあり、長引くデフレの時代となった。教え子たちの中には就職できないままの者も多く、「ロスジェネ」と呼ばれたりした。これは、「資本主義」の危機なのか、それとも政策の誤りによる「人災」なのか。「経済成長より成熟社会」なんて言っているのは、年金をしっかりもらえる世代か、安定した職種についている大企業の社員か国家公務員、大新聞にお勤めの人たちではないのか、ということを考えさせてくれた本。なお「経済成長=環境破壊」と一直線につなげて考えてしまう人は福澤諭吉『文明論之概略』を読むべし。

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『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書 ; 973)
若田部昌澄, 栗原裕一郎著(筑摩書房、2012年)

大学で文学の研究をしていると、浮世離れをしてしまうことがある。本書は、経済学者に文芸評論家がインタヴューをするかたちで経済学について語ったもの。インセンティブ、トレード・オフ、トレード、マネーという概念を中心に経済学について論じていて、わかりやすい入門書となっている。人文学が無前提で正しいとしているところの問題点も指摘されてあり、刺激的だった。ここで批判されている柄谷行人の『世界史の構造』(岩波書店)と比較してみたい。

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『与謝野晶子評論集』(岩波文庫 ; 緑-31-038-2)
与謝野晶子 [著] ; 鹿野政直, 香内信子編(岩波書店、1985年)

「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」という歌を収めた『みだれ髪』という歌集で有名な与謝野晶子だが、明治時代の終わりから大正時代にかけて旺盛な評論活動を展開している。女性の教育の問題や、男女協同の社会、女性の経済的自立の問題など、いまから見ればそれほど新しい論点に見えないかもしれない。しかし、はたして日本の現実は晶子の主張を実現しているだろうか。

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『女子と就活 : 20代からの「就・妊・婚」講座』(中公新書ラクレ ; 431)
白河桃子, 常見陽平著(中央公論新社、2012年)

たくさんの「就活」本が出ており、これからもたくさん出版されると思うが、現時点で、一番納得がいったもの。白河桃子氏は、「婚活」という言葉を普及させた人として有名。女性は、就活と婚活、妊活と3つのことを考えておかねばならないことを説く(ただし、すべての女性は結婚、出産すべき、と言っているわけではない)。シングルマザーの貧困が話題になっている今日、女性が働き続けることは極めて大事。就職や結婚に際し、女子学生は、いやでも現実を見つめざるを得ないし、男子学生はもっと女性の置かれている状況を知るべきだろう。

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『日本仏教史 : 思想史としてのアプローチ』(新潮文庫 ; す-13-1)
末木文美士著(新潮社、1996年)

表題のとおり、日本の仏教の歴史を、通史としてまとめたものだが、非常にわかりやすく、また内容も充実している。ある種原理主義的な思想を日本人がどのように受容していったのか。遠藤周作の『沈黙』を例に挙げつつ著者が説明している部分など、大いに考えさせられる。文庫本でこれだけの内容は贅沢だ。

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『身体・自我・社会 : 子どものうけとる世界と子どもの働きかける世界』
ワロン[著] ; 浜田寿美男訳編(ミネルヴァ書房、1983年)

自我は自ら身体を持つと同時に、他者及び他者の身体との関係性の中で発達していく。著者はフランスの発達心理学者で、本書は、ピアジェと比較しつつ、子どもの発達段階についてまとめたもの。よく似た発想の『メルロ=ポンティ・コレクション』(筑摩書房)もお薦め。

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『三省堂名歌名句辞典』
佐佐木幸綱, 復本一郎編(三省堂、2004年)

日本の和歌、俳諧、川柳、近代短歌や俳句の名作を収めた辞典。研究者や実作者による簡単な解説がついていて親しみやすい。辞典なので、借りることはできないが、手元に置いておきたい一冊である。ただし、まず自分なりに作品のひとつひとつその世界を解釈・鑑賞した後、解説を読むことを薦めたい。

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『俳句のユーモア』
坪内稔典著(講談社、1994年)

著者は、立命館大学出身の日本文学研究者で、正岡子規の研究や〈三月の甘納豆のうふふふふ〉〈たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ〉などの作品で知られる俳人でもある。俳句をユーモアという切り口から論じ、その魅力を教えてくれる。俳句の入門書としても最適。同じ著者の『正岡子規 創造の共同性』(リブロポート、1991年)もお薦め。
*版・出版社が異なる資料も所蔵しています。

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『アンダーグラウンド』
エミール・クストリッツァ監督

映像作品だが、ぜひこの作品を紹介したい。かつてユーゴスラヴィアという国があって、第二次世界大戦を経て、戦後、ソ連型ではない、独自の社会主義をすすめようとしていた。しかし、チトーというカリスマを失い、冷戦後、国は分裂し、内戦や分裂を経て現在に至っている。クストリッツァは、この国を舞台にして、祝祭的な映像と音楽とともに、皮肉と愛に満ちみちた寓話を描いた。これはユーゴスラヴィアを舞台にした現代世界史の寓話でもある。なお、第二次世界大戦中のユーゴスラヴィアを舞台にしたマンガに坂口尚『石の花』がある。マンガを一作だけといわれたらこれを選びたい。こちらは平和ミュージアムにあるので、ぜひ。

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『啄木評論の世界』
上田博, 田口道昭著(世界思想社、1991年)

最後に、自著で恐縮だが、本書は、石川啄木の評論に注をつけ、大学のテキストとして使えるようにしたもの。本当の著者は石川啄木である。「時代閉塞の現状」をはじめ、石川啄木の評論はいまなお現代的意義を失わない。また、「浪漫主義は弱き心の所産である」(「巻煙草」)、「『何か面白い事は無いか。』さう言つて街々を的(あて)もなく探し廻る代りに、私はこれから、『何(ど)うしたら面白くなるだらう。』といふ事を真面目に考へて見たいと思ふ」(「硝子窓」)など、身近な言葉で個人と社会や国家について語る言葉に魅了される。今となっては解説部分で書きなおしたいところも多々あるが、まずは啄木の文章を味わってほしい。 『新編啄木歌集』(岩波文庫)も併せて読んでほしい。

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