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山田 泰弘 先生(法学部)

2025.05.1


『史的システムとしての資本主義』(岩波文庫)
ウォーラーステイン 著 岩波書店、2007年

 大学の法学部の授業で、黒板事例である抽象的ケースを解いたり、覚えたりするだけの法律学の学習に幻滅しかけた時に、ウォーラステインの世界システム論に出会った。巨大な商品連鎖として存在する近代世界システムには、「中核/周辺」の分化があり、中核の「ヘゲモニー国家(覇権国家)」を中心に形成されるとする分析は、社会の秘密を知るようなわくわく感があった。そして、「自由・平等」や「意思主義」「法的義務」や「能力主義」といった普遍主義的価値が世界システムの中では中核地域(ヘゲモニー国家)の利益しか代弁しない(あるいは周辺からの収奪を「合法化」する便法である)という分析は衝撃的で、そうであっても社会を秩序付けるシステムを形成するのは法しかないことはなぜかを考えるきっかけとなった(現在でも答えが出ているわけではない)。この本は、ウォーラステインの主張のエッセンスをまとめており、岩波文庫版が近時出され、手に取りやすくなったのはうれしい。

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『株式会社の世界史 : 「病理」と「戦争」の500年』
平川克美 著 東洋経済新報社、2020年

法律の中でも、会社法は、規程が細かく条文操作が複雑で、できれば、見たくないと投げ出したくなる気持ちもよくわかる。そうであっても会社法に魅力を感じるのは、会社法が株式会社のフレームワークを提供し、会社法が、社会が常に成長しようとするDNAの源であり、貪欲な資本主義の欲望の根源であるからである。意外かもしれないが、「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする」(会社法104条)と「株式はその有する株式を譲渡することができる」(会社法127条)という無機質な二つの条文がその正体である。
この本は、著者の立教大学での「日本経済論」、早稲田大学での「現代企業論」の授業をまとめたものである。株式会社が社会発展の原動力となり、生産活動を増大させ、生産物を捌く市場を拡充させることを欲し、常にフロンティア(未開拓地)を開拓していくスピリットを社会に刻印した歴史を示す。しかし同時に、「フロンティア」が消滅するときに何が生じるかを予想し、現在がまさにその時ではないかということを示す。
巨視的な分析から、法律学としての学びを見ることができ、普段の学習で学ぶことが大きな使命を有することに気づかされる。

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『会社法は誰のためにあるのか : 人間復興の会社法理』
上村達男 著 岩波書店、2021年

株式会社を規律する法が資本主義の貪欲さの根源であり、人の欲望を解放した鍵であるのならば、それを御する方法も、その法のあり方にあるかもしれない。上村達男は、StockやShareとして株式の性格分析から、「会社は株主のもの」であるという通説的な理解を疑う。株主は、株式をたまたま一時の間有する主体に過ぎないのであれば、また、資本主義の貪欲さが年金など「市民」の将来の糧を得る活動であれば、社会的な責任を自覚した活動が求められるはずである。資本主義が曲がり角に立つときどこを目指すのかを考えさせる。巨視的な分析に対して法律学がどのように向き合うかを考えさせる。

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