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天野 晃 先生(生命科学部)

2025.09.1


『生命と非生命の間 : 地球で「奇跡」は起きたのか』
小林憲正著(筑摩書房、2024)

生命科学の研究は、現在、目の前にある生物を対象にしていることがほとんどで、場合によって、遺伝子の情報から進化系統樹を作ることで、その起源となる生物を想定するくらいであるが、本書は、地球上の生命のおおもとになる生命のようなものは、どこでどのような形で出現したのか、という生命の起源に関して解説されている。生命の発生は、教科書的には、太古の地球環境にあった無機物に雷を模した放電を行ったのちすぐに冷却することで有機物ができたというミラーの実験が解説されている程度ではないかと思うが、本書では、有機物生成の過程に関しても様々な検討がされていることが紹介されており、さらに、ここから類推する形で、宇宙のどのような環境で生物のようなものが出現する可能性があるか、というところまで解説されている。以前から、火星での生命探索の研究が行われた事情が不思議であったが、本書を読むと、過去の研究から地球外の惑星で、生物のようなものが検出される可能性が小さくないことが理由であることがわかった。普段、生命の研究では考えない範囲の純粋な「科学」に触れられる良い書籍。

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『失敗の科学 : 失敗から学習する組織、学習できない組織』
マシュー・サイド著 有枝春訳(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016)

医療業界と航空業界のミスを例に、失敗をどう扱うかで、その分野のミスの発生率が大きく変わることが、様々な事故の例などから説明されている。航空業界は、よく知られているように、ヒューマンエラーであっても、そのエラーが発生した原因はシステム側にあるという認識で、報告された操作ミスなどは処罰の対象としないという扱いで、ミスが起こらないシステムを作ることに注力してきている。一方、医療業界を含め、多くの業界では、未だに、ミスは隠すべきことという扱いをすることが多く、このことが、その業界のミスの減少を妨げているとされている。必ずしも航空業界のように装置中心の業界とそうでない業界では、事情は異なると思われるが、このような発想は、大学生の試験勉強やレポート作成にも当てはめることができると思われ、失敗を振り返ることから、自分の生活の失敗を避ける工夫ができる参考になると思う。

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『土と生命の46億年史 : 土と進化の謎に迫る』
藤井一至著(講談社、2024)

本書の最初は、土とは何かという説明から入る。土が何かということを考えたことはなかったのだが、鉱物と生物の死骸が混ざったものが土であるとのことである。そこから、土ができるプロセスの話、さらに長い地球の歴史の中で、初期の生物がどのように土と関わってきたか、生命の進化とともに土も変化してきた事情が説明される。さらに、人類の発生と文明の進化とともに、土がどのように変化してきたか、文明と土はどのように関係してきたかが紹介される。四大文明と呼ばれる文明地域が肥沃な土地によって形成されたということは色々なところで解説されていて、その後の文明は、土の改良による食糧の確保がその基盤となっていたことは教科書にもよく出てくるが、その後の現代文明に至るも土とヒトの文明は密接にかかわっているにもかかわらず、現代では専門化が進んで、農業にかかわっていない人には、そのことを意識することがなくなっているように思われる。今後の世界の食糧事情を考えるに、基礎知識として知っておくべき情報ではないかと思う。

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『脳の本質 : いかにしてヒトは知性を獲得するか』
乾敏郎, 門脇加江子著(中央公論新社、2024)

世間ではAIが大流行しているが、AIで多用されているニューラルネットは、元々は生命科学分野の神経の機能を模倣するところから始まっている。この書籍では、脳科学分野でどのように基礎的な知覚、視覚などから高次機能までが実現されているかを、仮説検証的に研究されてきた歴史が紹介されており、AIを知る基礎的な知識としても有益な情報が多い。著者が主に視覚心理の研究者であることから、視覚に関しては、視覚野の機能がどのようにして解明されてきたかを、過去の実験を紹介しながら詳しく説明されている。その後、運動に関する脳機能と視覚とのかかわりから、現在のAIでも重要な仕組みとなっている予測と予測誤差の脳回路について紹介されており、AIの理解にも有益である。また、高次脳機能と呼ばれる知識、言語、動機に関して、例えば文章を理解するための助詞の機能がブローカ野にあることなどが脳梗塞患者の実験などから紹介されている。チョムスキーらの生成変形文法も考えてみると、人間の脳の構造を反映したものなのだろうことが想像できる。また、行動予測などのドーパミン仮説についても紹介されている。最後は、ヒトの意識について、人工ニューラルネットと関連して説明されているが、この辺りはまだ解明が進んでいないようではっきりとした研究の紹介にはなっていないようである。

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『イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機』
山口栄一著(筑摩書房、2016)

日本は、先進国の中でもベンチャー企業の起業数が極端に少ないことで有名であるが、日本人が発明力が低いというような話ではなく、逆に、ベンチャー企業が多くのイノベーションを起こし、大きな利益を作っているアメリカを例にとって、どのような仕組みを作ってイノベーションの創出を維持しているかという点に関して紹介している書籍である。日本にもアメリカのベンチャー企業創出制度と似た制度があるそうで、その制度についても説明があるが、アメリカの制度とは似て非なるものであるそうで、日本の制度は、いかにイノベーションの創出を阻害しているかという点に関しても詳細に説明されている。企業側の例としてシャープの失敗例が書かれているが、シャープに限らず、多くの日本企業がバブル崩壊後の保守的な姿勢で新しい発明の価値を評価できなくなった経緯がよくわかる。今や大学に関しても企業と同じような状況になっている点がとても気になるが、このような社会状況を客観的に見る意味でも有益な情報源である。

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『文系と理系はなぜ分かれたのか』
隠岐さや香著(星海社、2018)

日本の大学の学部は、かなり明確に文系と理系が分かれていて、それぞれの学問領域でも、なかなかその枠をはみ出さない傾向があるが、よく言われるように、大学発祥の地であるヨーロッパなどでは、あまり文系と理系という区別は明確ではないとのことで、例えば、経済学は、アメリカ、ヨーロッパでは理系分野と認識されていて、高校でも数学が得意な生徒が進学する先になっているようである。この違いがどこから来たかということを、歴史的な経緯から分析している書籍であるが、ヨーロッパの学問が、日本で文系と考えられている分野の主な方法論である記述的な学問から、徐々に数学的に記述できる学問へと移行してきたという事情で文系と理系の境界というものが、そもそも存在しないところから始まっているのに対して、日本は、明治期に、その時代のヨーロッパの文系、理系の分野がそのまま導入され、その構成が固定したところから壁ができたのだろうと推測されている。このことは、日本の大学の中で世界から取り残される分野を予想できるとも解釈できるし、個々の学問分野が、世界では、これからどのように発展していく可能性があるかということを想像するためにも面白い情報である。

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『人口減少日本でこれから起きること』
河合雅司著(講談社、2017)

各所で紹介されている書籍なので、読んでいる人も多そうな書籍であるが、読むまで気が付かなかったが、人口というのは、その増減の仕組みがはっきりしているので、かなり正確に100年後まで予測できる統計量であるとのことである。例えば、18歳人口は、少なくとも今後18年は完全に正確な数字が出てくる情報であり、その先の18歳人口も、出産年齢層の人口からほぼ推定できる。大学にいると、18歳人口の減少情報を聞くことは多いが、そのことに本格的に対策を考えるということは少なく、目の前のことに注力してしまうが、国全体としても同じような状況であることがよくわかる。単純に、道路や鉄道などの交通インフラ、医療などの社会保障基盤が維持できなくなるだろうし、その基盤となる地方自治体が維持できなくなるという予測はとても具体的である。ぜひ若い人には読んでおいて欲しい書籍である。

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『カサンドラ症候群 : 身近な人がアスペルガーだったら』
岡田尊司著(KADOKAWA、2018)

発達障害に関しては、ここ10年ほどで随分一般にも理解が進んでいるように思われ、教育現場でも、文科省から配慮義務が課される等、対応が徐々に進んでいるように見える。しかしながら、発達障害者のまわりにいる人に関しては、まだまだその状況が理解されていないように思われる。実際に、発達障害がない人に比べると、発達障害を持つ人々は性格や能力に分散が大きく、まわりにいる人々がどのように接することがお互いのストレスを少なくするのかという点に関しては、ほとんど情報が提供されていないように思われる。カサンドラ症候群は、必ずしも相手が発達障害スペクトラムであるとは限らないが、特に夫婦などの親密な関係において、共感的な情緒を持てなくなる状況の名称のようである。このような状況は、大学生のクラスメート間などでも十分起こりうることで、我慢した挙句、爆発してしまうというような破壊的な状況にならないためにも、知識として知っておくことが良いと思われる情報である。

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『世界一シンプルな進化論講義 : 生命・ヒト・生物--進化をめぐる6つの問い』
更科功著(講談社、2025)

当然ながらダーウィンの時代にも生物は非常に大きな多様性を持っていて、ダーウィン(とその時代の先駆者たち)の進化論は、なぜその多様性が生まれたのかということを、初めて合理的に説明したのだろうことは容易に想像できる。ダーウィンの自然淘汰説は、直感的には進化の結果を理解するためにはわかりやすく、例えば、キリンの首が長いのは、突然変異で生まれた首が長い個体のほうが生存に有利だったから、という説明はわかりやすい。この書籍でも、前半では、進化が生じる仕組みとして、自然淘汰だけでなく、最近の研究成果として後天的な獲得形質が遺伝する現象などにも言及していて、進化のミクロな仕組みについてはわかりやすく説明されている。一方で、進化には集団として突然変異で生まれた形質が遺伝により伝播していく仕組みが必要で、こちらの現象に関しては、直感的に理解することはなかなか難しく、進化の系統樹というものが、そもそも原生生物に至る素直な樹形として理解できるわけでもないというということが、この本でも、色々な例で説明されている。かなりわかりやすく書かれているが、やはり、全貌を理解することはなかなか難しく、最終的に、進化を簡単に理解してはいけないのだなということがよくわかる内容である。

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