前田 大光 先生(薬学部)
~全体を通して~
図書館の方から1年以上前に推薦図書の依頼を受け、読書量はけっして多くないため、 非常に困ってしまった。 いったんお断りさせていただいたが、1年ほど過ぎ、日常の活動(教育・研究)以外で 自分の考えや思いを学生の方々に伝えることも責務なのではないかと考え直し、ここに 5冊だけあげさせていただいた。 (ほかに歴史小説(司馬遼太郎、吉川英治など)やミステリー(雫井脩介、宮部みゆき、 京極夏彦など)もたまに読んでいましたが、これらも一部をつまんでいるだけで、かなり 少ない方かとは思います。)
『炭素文明論 : 「元素の王者」が歴史を動かす』
佐藤 健太郎著(新潮選書 2013年)
有機化学を専門とする身としては、扱っている対象(有機化合物)と生活・社会との 関連をうまく説明するのに苦労することも多い。 昨年(2013年)発行された佐藤氏の「炭素文明論」(1)は、有機化合物(= 炭素から なる化合物)がこれまでの歴史(かつ現代の社会)にいかに重要な役割を果たしてきたか、 有機化合物なくして現代社会はありえなかったかを、ドラマチックにまとめている。 身近な素材(砂糖やたばこ、コーヒーなど)をめぐる争奪戦の話は楽しい。
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『新薬に挑んだ日本人科学者たち : 世界の患者を救った創薬の物語』
塚﨑 朝子 著(講談社ブルーバックス 2013年)
一方、有機化合物のなかでも医薬品開発の成功物語をまとめたものが、塚﨑氏「新薬に 挑んだ日本人科学者たち」(2)である。 いずれも理工系の学生にかぎらず、多くの人に興味を持たれる内容であると思う。
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『生きること 学ぶこと』
広中 平祐 著(集英社文庫 2011年 )
本との出会いは、その時期(年齢)や環境にもよるが、人生に決定的な影響を与える ことがある。 数学者である広中氏の「生きること 学ぶこと」(3)は高校時代に出会い、研究者の考え 方や生き方に触れた一冊であった (広中氏はテレビコマーシャルにも出演されるような方で、僕でも知っていた)。 ライバルに先に問題を解決された際のいきさつは強烈に印象に残っており、その後、 研究に関わるようになり、その悔しさなどがより理解できるようになった。
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『青春をどう生きるか : いまやらなくて、いつやれる』
加藤 諦三 著(光文社文庫 1989年)
一方、加藤氏「青春をどう生きるか」(4)は僕の生き方に決定的な影響を与えたものであり、この本との出会い(高校の時に本屋で偶然見つけた)が無ければ、人生がどうなっていたか 分からない (これを推薦したいために依頼を引き受けたと考えている)。 平易で分かりやすい内容であるが、若者に対する作者の思い・励ましが随所にあふれ、 読み手の心に伝わってくる。些細にも思えるかもしれないが、気持ちをどう持っていくか、 それが生きることにはとても大事であるということを意識させてくれる本である。
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『日本語の作文技術』
本多 勝一 著(講談社 2005年)
日本語を分かりやすくまとめる技術はいかなる状況においても重要である。 新聞記者であった本多氏「日本語の作文技術」(5) には、日本語をいかに論理的に 構築するかということがまとめられている。とくに修飾語の配置によって誤解が生じる点 などの説明は分かりやすい。 これまでの国語教育では感想文を課題にするものの、事実を極力客観的にまとめた 報告文を書く(とくに論理的にまとめる)訓練が十分ではなかったのではないかと思う。 単語を無意識に並べるだけでは、分かりにくい(理解してもらえない)文章になる。 その点では、理工系の学生には、レポート作成技術の基礎としても役立つものである (ただし、レポート作成専用ではないので、時制の使い方などには注意を払う必要がある)。 本多氏は他にも多数のルポライター記事(書籍)を書かれており、興味のある方はぜひ 一読していただきたい。
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