上原 哲太郎 先生(情報理工学部)
現代社会は情報化社会であります。情報化社会において、セキュリティは欠かせない知識になっています。セキュリティについてよく知ってもらうためには、ITやその周辺の情報についてよりよく知る必要があると思っています。多くの人にITについてよりよく知ってもらうため、できるだけ技術的な背景知識がなくても読めるような本を多く選びました。
『Factfulness : 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド著 ; 上杉周作, 関美和訳(日経BP社、2019)
いきなりITとは無関係な本ですが、今の社会を正しく理解するための必読書だと思っています。この本を読めば、今、多くの人が漠然と世界に関して抱いているイメージは、事実に基づいていないということに気づかされます。著者のハンス・ロスリングはこの本に書かれた内容について多くの面白い講演を行っておられ、YouTube等で視聴できますので是非こちらもご覧下さい。なお、息子のオーラによるあとがきもまた是非お読み下さい(驚き、心打たれると思います)。
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『閉じこもるインターネット:グーグル・パーソナライズ・民主主義』
イーライ・パリサー著 ; 井口耕二訳(早川書房、2012)
これも現代のネット社会を理解するために必読の書の一つだと思います。パリサーは、インターネットの検索のパーソナライズ技術が、ネット利用者を「フィルター・バブル」の中に閉じ込めていくことを喝破した人です。この現象により、それぞれの人が見ている社会が違ってきていること、それが社会の分断を生み、果ては民主主義の危機をもたらしかねないことを是非理解して下さい。似た概念として「エコーチャンバー現象」を示したキャス・サンスティーンによる近著「#リパブリック : インターネットは民主主義になにをもたらすのか(ISBN978-4326351763) 」もお勧めします。
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『暗号解読』
サイモン・シン著; 青木薫訳 (新潮社(新潮文庫)、2007)
セキュリティの基礎になるのは暗号技術といえましょう。この本は、暗号の歴史を古代文明の時代に使われた暗号から、現代暗号に至るまでの歴史を描いたものですが、技術的な知識がなくても読み物として楽しめる内容になっています。暗号の世界を垣間見るためにどうぞ。なお4章で出てくるエニグマ解読の物語は、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(2014)」でも描かれていますので、こちらも是非観てみてください。
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『暗号理論(図解雑学 : 絵と文章でわかりやすい!)』
伊藤正史著(ナツメ社、2003)
暗号技術の基礎となる数学がとても分かりやすく解説されています。現代暗号は数学の塊とも言えますが、この本は数学が苦手な人でも軽い気分で読めると思います。特に、現代暗号を語る上で欠かせないRSA暗号については、これ以上ない簡単な解説になっていると思います。
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『暗号技術入門 : 秘密の国のアリス』
結城浩著(ソフトバンククリエイティブ、2015)
技術者として暗号技術をちゃんと理解したい人はこの本から始めるとよいでしょう。現代暗号がどのような理論を基に出来上がっているか、基本的な部分が丁寧にわかりやすく解説されています。暗号は使い方を誤るとセキュリティ的な問題が容易に起きますが、本書にあるような基礎を理解しておけばそのような事故も防ぐことができるでしょう。
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『マイクロコンピュータの誕生:わが青春の4004』
嶋正利著(岩波書店、1997)
皆さんが当たり前のように使っているパソコンやスマホに使われているマイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)の誕生には、嶋正利という日本人技術者が大きな貢献をしています。この本は、世界最初のマイクロプロセッサであるインテル4004や後継の8008、そしてその後世界的に広く使われるZ80などの開発に彼が携わるまでの物語が描かれています。
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『闘うプログラマー : ビル・ゲイツの野望を担った男達』
G・パスカル・ザカリー著 ; 山岡洋一訳(日経BP社、2009)
皆さんが使っているWindowsというOSの基礎部分はNT Kernelと呼ばれます。NT Kernelは、その開発のために他社から引き抜かれたデヴィッド・カトラーと、彼が連れてきた技術者たちによって作られました。カトラーは高い確かな技術と情熱をもち、そして自分にも他人にもとても厳しい人です。その彼を取り巻く人間模様を中心に、Windows NTという新しいOSがいかに困難を乗り越えて開発されたのかが描かれています。
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『日本デジタルゲーム産業史』
小山友介著(人文書院、2016)
デジタルゲームは日本が世界に誇る産業です。本書はその40年にわたる興亡の歴史を描き出したものです。この種の昔のゲームに関する書籍はいささか懐古趣味的なものが多いのですが、本書は客観的データに基づいた学術書に仕上がっています。ゲーム産業の過去の発展を振り返ることで、日本のゲーム産業の将来を占うことができると思います。
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『欺術 : 史上最強のハッカーが明かす禁断の技法』
ケビン・ミトニック, ウィリアム・サイモン著;岩谷宏訳(ソフトバンクパブリッシング2003)
ケビン・ミトニックは初期の著名ハッカーで、実際にあちこちに不正アクセスを繰り返していた人です。その彼が「ソーシャル・エンジニアリング」と呼ばれるハッキング技法とその対処法の解説しているのがこの本です。技術的な知識があまりなくても面白く読めます。なお、ケビン・ミトニックを捕まえるのに成功したのは、下村努という日本人であり、その経緯は「テイクダウン―若き天才日本人学者vs超大物ハッカー(上巻ISBN 978-4198605018、下巻ISBN978-4198605025)」という本に描かれています。
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『Hacking : 美しき策謀:脆弱性攻撃の理論と実際』
ジョン・エリクソン著;村上雅章訳(オライリー・ジャパン、2011)
技術者としてセキュリティに関わりたいと思っている人にはこの本をお勧めします。かなり濃厚な内容の技術書ですので、ITに関してしっかりと知識を持っていないと読み解くことが出来ません。逆に言えば、この本の内容が面白く読めるようになれば、セキュリティ技術者としてスタート地点に立てると思います。
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『ハッカーと画家 : コンピュータ時代の創造者たち』
Paul Graham著(オライリー・ジャパン、2005)
ハッカーという言葉は元々悪い意味ではなく、とても高いIT技術を持つ人を指します。本書はポール・グラハムという希有なハッカーによる、とても切れ味鋭い刺激的なエッセイ集です。ハッカーの頭の中をのぞき見てみたい人は是非どうぞ。とても元気になれます。他のハッカーによる面白いエッセイ集としては、ジョエル・スポルスキによる「Joel on Software (ISBN 978-4274066306), More Joel on Software(ISBN 978-4798118925)」も(より技術書寄りにはなりますが)お勧めです。
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『サイバーセキュリティ読本』
一田和樹著(原書房、2013)
現在のネット社会においてセキュリティがどのような状況になっているのか知りたいという方はこの本をどうぞ。サイバーセキュリティ上の現実の脅威について、わかりやすく網羅的に描かれています。私たちが使っているインターネットやサービス、その上のシステムがいかにセキュリティ的には脆弱なものであるのか、知ってしまうとちょっと怖くなってしまうかもしれません。
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『ITリスク学:「情報セキュリティ」を超えて = IT risk science : beyond the information security』
佐々木良一編著 ; 氏田博士 [ほか] 著(共立出版、2013)
セキュリティは単体の技術だけでは維持することが出来ず、組織マネジメントが重要であるとされています。そのようなマネジメントの中で、リスク管理がまた重要であると考えられています。本書は、ITシステムをリスクの観点から捉え直したITリスク学の入門書です。組織論など学生さんには少しかみ砕きにくい内容も多いので、上回生や院生の皆さんにお勧めします。
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『ニッポンの個人情報:「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ』
鈴木正朝, 高木浩光, 山本一郎著(翔泳社、2015)
プライバシーはセキュリティ以上に誤解が多く、理解に時間がかかる概念だと思います。本書は、プライバシーに造詣が深い三氏の鼎談を通じて、現代日本に蔓延ってしまっている「個人情報保護」への誤解を解きほぐしてくれます。本書で本来のプライバシーというものに興味を持った方は、中川裕志著「プライバシー保護入門 : 法制度と数理的基礎(ISBN 978-4326403158)」もどうぞ。法的側面と技術的側面の両方を俯瞰した貴重な本です。
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『熱気球イカロス5号』
梅棹エリオ著(中央公論社(中公文庫)、1973)
最後にひとつ、私の中学生時代からの愛読書をご紹介します。日本で有人の熱気球が初飛行したのはたった50年前、1969年のことです。京大と立命館大の学生を中心とするグループにより、手探りで球体が設計され作成されて、北大の学生たちの作ったゴンドラと組み合わされ完成したのが「そらぼうず」、またはイカロス5号と呼ばれる日本初の有人熱気球です。本書はその経緯をそのグループの一人である著者がまとめたドキュメントです。学生時代に、誰も成功したことのないことをやり遂げるロマンを是非感じてください
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