播磨谷 浩三 先生(経営学部)
研究概要
自身の主要な研究フィールドは、銀行業や証券業、保険業などの金融産業を対象とした、経済学の産業組織論をベースとした実証分析です。これまで、金融機関の効率性の計測や、合併や再編などの影響について研究をしてきました。
今回は、自信が担当している「金融論」に関連した書籍を中心に、バブルやアカウンタビリティーをキーワードに選択を行いました。
『競争の作法 : いかに働き、投資するか』
齊藤誠著(ちくま新書、2010年)
どうかタイトルだけを見て誤解しないで下さい。自由競争主義を単にあおるだけの内容では決してありません。本書のメッセージは、正しい知識(経済理論)と判断で現実の経済現象に向き合うことの大切さにあると思います。もちろん、現状認識を超えた具体性において、本書の内容に反感を覚える人もいるかも知れません。しかし、競争を否定して理念や感情だけで世の中はうまくいくのでしょうか?無理だからこそ、競争とは何かについて真剣に考えることが重要だと思います。身につまされるような事例を含め、最近読んだ新書では、久方ぶりに考えさせられる良書でした。
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『バブルの歴史 : チューリップ恐慌からインターネット投機へ』
エドワード・チャンセラー著(日経BP社、2000年)
私の学生時代は完全にバブル経済のど真ん中でした。ただ、その後にバブルがはじけ、不況になってから相対的に異常な時代であったと認識できたわけであり、大学生であったという自身の立場を離れても、多くの人はバブルの渦中には問題の深刻さに気付かないものだと思います。本書では、資本主義社会で繰り返されてきた主要なバブル現象について、社会的な背景などから興味深く解説されています。一言で言ってしまえば、金に対する人間の飽くなき貪欲さがバブルを拡大させる大きな要因なのでしょうが、かくいう私も、もし給与所得を得ている身で20年前に生きていれば、おそらく誘惑に負けて投機に手を染めているなぁという気がします・・・
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『リスク : 神々への反逆』
ピーター・バーンスタイン著(日経ビジネス人文庫、2001年 他)
本書では、未来に対する不確実性をどのように客観的に捉えるか?という問題に取り組んだ、先人の叡智の歴史について述べられています。東北の大震災の被害を見るまでもなく、人間がリスクを完全にコントロールすることは不可能です。しかし、現在の経済社会の繁栄はリスクへの挑戦なしに実現しなかったのも事実です。相当にボリュームのある内容ですが、この本を題材に、確率や統計をベースとしたリスクマネジメントがなぜ重要であるかを考えてみてはいかがでしょうか?
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『日本金融システム進化論』
星岳雄, A・カシャップ著(日本経済新聞社 、2006年)
過去20年間、日本の金融システムは大きく変化しました。もともとはどのような名前であったのか、思い出すことが難しい銀行や保険会社がたくさん存在します。本書では、日本の金融システムが歴史を通じてどのように変化していったのかについて述べられています。系列関係やメインバンク制など、日本の金融システムを象徴する言葉はいくつか存在しますが、これらはあくまでも戦後に成立したものであり、戦前はまったく異なる姿をしていました。金融システムの将来予想を始めとして、日本の金融の問題に関心のある人は読んでみてはいかがでしょうか?
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『検証バブル犯意なき過ち』
日本経済新聞社編(日経ビジネス人文庫 、2001年 他)
私は平成4年からの5年近く、まさに日本経済がバブル経済の崩壊で坂を転げ落ちるのと同じ時期に銀行員をしていました。この書籍では、バブル経済がどのような要因で生じ、なぜ平成不況がこれほどまでに長引いてしまったのかを事実に即して詳しく述べられています。齊藤先生の書籍とも通じますが、合理性や客観性を軽視した経済政策の運営がいかに国民生活に不幸をもたらすかを感じ取ってもらえればと思います。と言うか、自身にとってもかなり不遇をかこった時代でもあり、やりきれなさが募ります。あ~、思い出すだけで本当に腹立ってきた!!
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『監査難民』
種村大基著(講談社、2007年)
銀行員時代、税理士の方が身近であったせいもあり、恥ずかしながら公認会計士とはどのような仕事をしているのかよくわかりませんでした。本書では、かつて四大監査法人の一角を占めてきた名門の監査法人が、粉飾決算への加担で所属会計士が逮捕された事件を契機に自主解散へと追い込まれる過程をドキュメンタリー的に述べられています。難関国家資格でありながら試験合格者の4割近くが就職難という異常な状況が続く公認会計士の世界ではありますが、目指す、目指さないに関係なく、ファイナンスを学ぶ人には興味を持って読める内容だと思います。
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『経営なき破綻 平成生保危機の真実』
植村信保著(日本経済新聞出版社、2008年)
バブル経済の崩壊後、多くの金融機関が経営破綻しました。本書では、格付け機関のアナリストでもある著者が、地道な取材に基づいて生保破綻の背景と要因を検証しています。ガバナンスの欠如などでは言い表されないくらいお粗末な事例が紹介されていますが、自身の経験と照らし合わせても、少なくとも一昔前までの日本の金融機関の多くはこの程度のグダグダ状態であった様な気がします。これまた個人的には非常に気が滅入る内容ではありますが・・・
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『経済を動かす単純な論理』
櫻川昌哉著(光文社、2009年)
異論はあるかも知れませんが、個人的意見として、金融論とは本質的にマクロ経済学の一部ないし応用科目と考えています。しかし、経営学部には経済学は敷居が高いと感じている人が少なくないのではないでしょうか?本書では、リスクとバブルという2つのキーワードを用いて、経済の本質とは何かについて、近年の金融不況を題材に非常に分かりやすい説明がなされています。経済学、特にマクロ経済学に対して難しいと抵抗感を覚える人に是非とも手に取って欲しい一冊です。
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『昭和16年夏の敗戦』
猪瀬直樹著(中公文庫、2010年 他)
太平洋戦争の開戦前、総力戦研究所という官、軍、民のエリートから成る組織が日米開戦のシミュレーションをした結果、必敗の予測を行いました。しかし、その後の史実はどうであったかは、皆さんがよくご存じの通りです。私はこの本を銀行員時代に初めて読み、衝撃を受けました。バブル崩壊後の不良債権問題の処理策とも通じるのですが、責任ある立場の人間が目の前にある事実に正直に向き合い、冷静な判断を下すことがいかに大切であるか考えさせられます。
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『職業としての学問』
マックス・ウェーバー著(岩波文庫 、1980年 他)
昨今、大学教員への道は本当に狭く厳しいものになっています。謙遜でも何でもなく、自らの今の境遇は運によるところが大きいと自覚しています。ただ、なりたくてもなれない職業であるからこそ、その名に恥じない姿勢を続ける努力はしなければとの思いは持っているつもりです(思うだけで行動が伴っていない気もしますが・・・)。とにかく、時代背景は違うとしても、大学で働くとはどういうことかについて自戒を迫る名著です。皆さんにとっても、大学で学ぶとはどういうことかについて、あらためて考えるきっかけになることを願います。
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