中村 健 先生(経済学部)
私の青年期に刻まれた10冊
『昭和京都名所図会全7巻』
竹村 俊則 著(駸々堂出版)
京都の郷土歴史研究家となる竹村俊則が少年時代から読みふけった浮世絵師竹原 春朝斎の挿絵による「都名所図会」(1780)に感化され、現代の名所図会を作ろうと著した「新撰京都名所図会」の改訂版、挿入されている鳥瞰図300余は彼の自筆という。史蹟・伝説・年中行事・風俗習慣・民間信仰・名物名産等々、京都の歴史地理を余すところなく知ることができ、京都観光協会の下で学生観光ガイドをしていた私たちのバイブル的書でもあったが、昨今のガイドブックとは趣を異にする名著といえる。
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『レストランの美食学 : フランス料理の愉しみ』
見田 盛夫 著(駸々堂出版)
世に「グルメ」などという言葉も「美味しんぼ」もなかった頃、自分がしてほしいと思うことを他の人にもするという美意識の基で食を探求した書である。しかし日本のフランス料理の発展に半生を捧げ、山本益博と共に「グルマン」を創刊した著者は「グルメ」時代の火付け人である。「フランス料理店なんか怖くない」「柿右衛門みつけた!」など本書を一読して食べ歩くとメートル・ド・テルに一目置かれること間違いない。就職に失敗し て、次の挑戦がダメ」なら「食」の道へ転身するため渡仏を真剣に考えさせた書でもある。
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『近時政論考』
陸 羯南 著(岩波文庫)
新聞「日本」の社長兼主筆。国民論派(国民主義)を唱えた近代ジャーナリズムの創始者。藩閥政府による専制政治や追随的な条約改正、植民地支配的戦争に反対するなど鋭く批判し、伊藤、山県等歴代内閣から最も多い発行停止処分を受けている。そんな彼の下から後の大新聞の創始者が多く輩出されたのは偶然でない。かの正岡子規を社員とし最後まで支援し「生涯の恩人」と言われた人物でもある。丸山真男にも「豊かな世界性と進歩性を備え自由主義・立憲主義的側面を前面に社会全体の国家主義化の風潮に抵抗した」と評価され、偏狭なナショナリズムと一線を画していた彼の政論に、今こそ目を向けたい。
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『竜馬がゆく』』
司馬 遼太郎 著(文藝春秋)
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『竜馬がゆく』(新装版)
司馬 遼太郎 著(文藝春秋)
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私と同じ日本史好きの学生と坂本龍馬について語り合った時、彼は「司馬史観」について熱く語り始めた。そんな彼に「で、『竜馬がゆく』読んでみてそう思うのかぁ」と呟いたところ「いや、読んでいません」と。彼は「この国のかたち」や「明治という国家」は手にしていたが、青春歴史小説の名著であるこの書を読んでいないという。ぜひ若き時代に史実の坂本龍馬だけでなく「竜馬」の生き様に触れてほしい。ちなみに学生時代から30代前半まで龍馬の命日に霊山墓地まで墓参していました。昨今風景は一変しています。
『やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』
桑田 佳祐 著(新潮社)
ジャパンポップ&ロックスター界の巨星桑田佳祐が、突然の闘病生活、震災を経て、生命と向き合い復活し、大学在学中デビュー以来の音楽人生と未来について、自選88曲の歌詞と共に真摯に語ったエッセイ集。無論、「ただの歌詩・・・」は反語。サザンの曲を聴きながら、曲を「ビール」歌詞を「器(ジョッキ)」と語ったサザン初期の前作「ただの歌詩じゃねえか、こんなもん」と合わせ読むと彼とサザンの変遷、歌詞の奥深さが読み取れて面白い。ちなみに同世代の私はサザンのライブにデビュー以来欠かさず参加している。
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『哺育器の中の大人 精神分析講義』
伊丹 十三 ・ 岸田 秀 著(筑摩書房)
後に「お葬式」「タンポポ」などの映画監督となる希有の才人エッセイストの伊丹十三が「子育てとは何か?」「人を愛するとは?」「何のために人は生きるのか?」「男(女)らしさについて」といった誰もが持つ初歩的な問いを、「ものぐさ精神分析」で著名な岸田秀に巧みに投げかけることで、フロイト理論を土台とした自我の構造や(無)意識の世界、幻想や知覚の仕組みなど根源的な問題に導かれ気づかされていった対談集。
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『教えることと学ぶこと 教育の再生湊川で起こったこと』
林 竹二 著(倫書房)
宮城教育大の学長を務めた著者が70歳の時、過酷な貧困の中、読み書きすら出来ない生徒たちのいる定時制湊川高校での授業「人間について」の実践記録である。数ページある写真のページには、眉間にしわを寄せ人を睨みつける生徒たちの表情がみるみる変化していく様子が映し出されている。「教育においては、教えるということの根底に「育てる」ということがなければならない。成長を助けるという意志が」という著者の言葉の現れが見てとれる。生徒たちからの感謝の手紙も収録されている、これが読む者を泣かせる。
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『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』
金井 壽宏 ・ 田柳 恵美子 著(かんき出版)
シリーズ「踊る大捜査線」の名セリフ「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」「誰のために働いてんだか…」「レインボーブリッジを封鎖できません」「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」などに対し「本部は現場に何を与えるべきか?」「モチベーションとリーダシップ」「タテ割り官僚主義の弊害」など組織論上でのテーマからそれぞれ解説している。詳しく書かれた登場人物のプロフィールや「本気で組織論!」などというコラムを見ながら、場面を思い浮かべて楽しく組織論が学べる入門書だ。
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『ソリューション・バンク ブリーフセラピーの哲学と新展開』
長谷川 啓三 著(金子書房)
解決事例データベース「ソリューション・バンク」から、いじめ・不登校・家庭内暴力などの30余の事例を紹介している。主に、医師・教師・カウンセラーの読まれる本であろうが、「問題」の原因の除去ではなく、「変化」を重視し、「ソリューション(解決)」を志向するブリーフセラピーを事例を基にコンパクトに説明し、実生活に生かせる解決事例集となっている。さらなるステップアップには「よくわかる!短期療法ガイドブック」も。
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『新訂版 いじめ 教室の病い』
森田 洋司 清永 賢二 著(金子書房)
新訂版が出て20年が経っても、色あせない「いじめ」に関する定本と言ってよい著作。調査によって明らかにされた「いじめ集団の四層構造」は「加害者」「被害者」「観衆」「傍観者」の四層からなるが、近年、過去に比べて「仲裁者」層が減少しているという指摘は、いじめの予防や子どものコミュニケーションや集団づくりの見直しに一石を投じている。 大人社会の様々なハラスメント事象を考える上でも、教員志望のみならず多くの学生に読んでもらいたい気がする。
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