神藤 貴昭 先生(経済学部)
◆今回のテーマ : 立ち止まって、ふりかえって、そして未来を目指そう
学生の皆さんは、大学で何を学びたいかということを問われると、社会に出てすぐに 役立つもの、あるいは就職試験対策といったものに気をとられるかもしれない。その気持ちは分かるし、それも重要なことである。しかしながら、それだけではなく、いま少し 立ち止まって、自分が来た道、さらには人々が来た道を、ゆっくりふりかえってみること、 対象化して考えることこそが、大学でなされるべき作業である。この経験が、将来、何を するにしても「自分の位置」を知ることにつながり、「自分は何をなすべきか」について 判断するときのリソースになる。
では、「立ち止まって、ふりかえって、そして未来を目指そう」。 教職過程を担当する教員ということもあり、書籍は、教育学・心理学を中心に読みやすい ものを選択してみた。
『山びこ学校』
無着成恭著(岩波書店 1995年)
学校。しかたなく行っていた。机の前に座ると、勝手に授業が始まり、授業が終わる ような、身を任せるだけの、流れ作業的な場所だった。そんな人も多いと思う。学校とは 何をするべき場所か。終戦直後、若い教師が、子どもの暮らしに根差し、生活の問題を 解決できないかと一緒に考える。学校をそういう舞台としなければならないと考えた。 現在、もちろん社会的状況は異なる。あなたなら学校をどんな場にしたいだろうか?
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『遅刻の誕生―近代日本における時間意識の形成』
橋本毅彦, 栗山茂久著(三元社 2001年)
大学の教室。チャイムが鳴って授業が始まった後も、遅刻して入室してくる人がいる。 しかし、遅刻というのは、鉄道ができて時計が気になる人が誕生し、さらには学校制度が 広まることによって「誕生」したものである。授業で遅刻してシバかれた際には、この本を 引用し、「元来、遅刻というものは近代の産物であって、・・・したがって、遅刻というのは 近代に特異な相対的なもので、通歴史的な絶対的な悪ではありません」などと一席ブッたら、 先生は許してくれるであろう(保証しません)。
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『教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化』
竹内洋著(中央公論新社 2003年)
戦後、大学生はどのような本を読んできたか、どのような教養を身につけるべきだと されてきたか。その源流はどこにあるか。教養主義大学文化と石原慎太郎という相克、 岩波書店と講談社という相克。そしてマス高等教育段階に至って勃発した、学生と 教養エリートたる大学教員との紛争。今の大学・大学生の姿になる前に、どのような 大学・大学生の姿があったのか。少しふりかえってみてほしい。 本書では、教育社会学的な分析がなされる。
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『東京大学の歴史 ―大学制度の先駆け』
寺﨑昌男著(講談社 2007年)
別に東大のことに限った話ではなく、新学期はなぜ4月に始まるのか、とか「学部」 って、どうやって考えられたのかとか、成績のつけかたとか、大学にいる者が「あたり まえのこと」と思って、さほど気にしていない制度や慣行について考察した本。大学の 歴史に興味ある人は、立命館の大学史(「立命館百年史」「立命館百年史紀要」)も 出ているので、そちらも。
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『日本を滅ぼす教育論議』
岡本薫著(講談社 2006年)
われわれは、しばしば、根拠を明らかにせずに、ムードや雰囲気によって意見を作り上げたり、発言してしまったりしがちである。国家レベルでも、そのような意見や発言を前提にして政策を決定してしまったら大変だ。しかし、本書によれば、教育関係の政策にはそのようなものが多くみられるという。
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『行動分析学入門-ヒトの行動の思いがけない理由』
杉山尚子著(集英社 2005年)
人間はどのように動いているのか。心理学では、これへの答えとして、大きく、 行動主義理論、精神分析理論、人間性心理学理論という理論で答えてきた(これはかなり 大雑把にわけたもので、さらに細かく分けられる)。本書はこのうち、行動主義理論に 基づいて、人間の行動を説明する。本書で紹介されている理論をもとに、自分と他者の 行動をふりかえってみてほしい。
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『行動経済学 ― 経済は「感情」で動いている』
友野典男著(光文社 2006年)
私の専攻は心理学なので、経済学には疎い。しかし、心理学と経済学は関係があるようで、 行動経済学という分野が生まれ、ノーベル経済学賞の対象になる研究も出ている。人間は 合理的経済人として行動するとは限らず、むしろ限定合理的に行動する。さらに言うと、 人間が持っている、「バイアス」も何か意味があるかもしれない(社会的に、あるいは 生物学的に)が、どうなんでしょうね。
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『まぼろし小学校 ことへん』
串間努著(筑摩書房 2006年)
教育を受けた側からの昭和の小学校教育史。教育方法や教育内容といった正攻法?による 歴史書ではなく、遠足時のおやつの値段、学校給食史とカレーシチューの導入、こっくり さん、替え歌といった「周辺」を扱う。しかし子どもたちは「周辺」でこそ一生懸命である。自分の小学校時代をふりかえり、子どもの気持ちになる本である。
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『図説教育の歴史』
横須賀薫, 千葉透, 油谷満夫著(河出書房新社 2008年)
「学制」制定後、日本ではどのような教育が行われてきたのか。明治、大正、昭和に章を 分けて、豊富な写真を用いて、日本の教育をふりかえる。これまで教育関係の本をいろいろ 読んで、活字ばっかりで疲れた人は、写真中心に目を通しても、頭の中の整理、気分転換に なる。たとえば、大正期の諸写真を見、解説を読んで、その生き生きとした教育改革への 意欲に思いをはせたい。
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『学校の怪談 ― 口承文芸の研究1』
常光徹著(角川書店 2002年)
子どものころ持っていた、怪異体験へのリアリティ、恐怖と楽しさをうまくミックス させる心性、ささいなことを材料に「ブリコラージュ」して魅力ある物語にしてしまう 想像力。学校という制度を生きぬく子どもたちは、学校をとてつもない小宇宙にしてしまう。教師はその小宇宙をどこまで理解することができるのだろうか。著者は中学校教師の経験がある民俗学者である。
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