徳田 昭雄 先生(経営学部)
今回のテーマ:時には専門書を離れて。 ヒトを知る、日本人を知る。
『「狂い」のすすめ』
ひろさちや著(集英社新書 2007年)
「真の自由人は世間からちょっと距離を置いて、世間を信用せず、むしろ世間を軽蔑し、軽蔑することによって世間に楯突いている人間です。あなたも、ぜひ自由人におなりください。簡単になれますよ。まず、自分が弱者だと自覚すればいい(21頁)。」 本書は、狂った世の中で楽しく生きる処世訓として、人生に意味を求めず自覚的に「狂い」と「遊び」を追求する「自由人」たるべきことを説いている。「自由人」たるとは「みなさんはそうおっしゃいますがね、わたしはそうは思いませんよ」と心の中で呟く、それだけのこと。 空気を、読まない。
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『悪魔のささやき』
加賀乙彦著(集英社新書 2006年)
「悪魔のささやきに動かされるときの人間の意識を見ていくと、ある共通点に気づかされます。それは、慎重によく考えたうえでの行動ではなく、ふわふわと風のように動いている心の状態であるということ(12頁)。」 著者の加賀乙彦氏は、人間が持っている弱さや醜さにつけこみ、それを引きずり出し、人を悪い方向へと突き動かすものを「悪魔のささやき」と名づけ、特に日本人は集団の意思や時代の「空気」に流され易い(悪魔に囁かれ易い)として、自分自身の内面を見つめ個人主義に徹するべきであると説く。 空気に、流されない。
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『日本はなぜ敗れるのか 敗因21カ条』
山本七平著(角川書店 2004年)
「戦後は「自由がありすぎる」などという。御冗談を!どこに自由と、それに基づく自由思考と、それを多人数に行なう自由な談論があるのか・・・・・一言でいえば「日本にはまだ自由はない」ということであり、日本軍を貫いていたあの力が未だにわれわれを拘束しているということである(312頁)。」 本書は、太平洋戦争での従軍経験をもとに執筆された小松真一氏の『虜人日記』を基に、評論家・故 山本七平氏(『日本人とユダヤ人』の著者)が、日本の敗因を論考したもの(初出は1975-76年連載)。日本が同じ失敗を繰り返す理由は、「自由」を思考・志向しないこと。
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『決められない! 優柔不断の病理』
清家洋二著(ちくま新書 2005年)
「迷って決められないということ、迷いを自覚していること、迷いの期間に耐えられることは、健全なこころのあり方なのである。むしろ問題なのは、決断に伴う迷いが自覚できないことなのだ。あるいは迷いに耐えられず、主体性も確かな理由もないままに結論を急ぎ、自ら決めたつもりになっていることである(45頁)。」 本書は、情報が氾濫し先行きが不透明な現代にあって、自身が迷っていることを自覚しないことや迷いに伴う不安と向き合うことなく決断を避けてしまう事態を問題視し、自分の判断で決める力を育てることの重要性とその処方箋を説いている。
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『フラジャイル 弱さからの出発』
松岡正剛著(ちくま学芸文庫 2005年)
「あいまいな言葉はメッセージ力のない“弱い言葉”と批判されてきた。日本人がこのような言葉を使いすぎるからといって、やたらに非難の的にもなってきた・・・・・しかし、これらは“弱い言葉”であるがゆえに、それ以外のどの言葉でもさししめせない領域や動向をささえていたのでもあった(405頁)。」 本書は、劣勢、不具、薄弱、曖昧、境界といった「弱々しいとおぼしい感覚や考え方=フラジャイルなもの」のもつ「力強さ」や「独自性」に光を当てる。弱者(あるいは日本人)が「出発」を企てる際のスタートラインは、意外と近いところにある。
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『日本退屈日記 日本の凋落と再生』
サイモン・メイ著、中村保男訳(麗澤大学出版会 2005年)
「現在、日本が精神的危機に陥っているのは、あまりにも西洋化して、あまりにも多くの伝統的価値を失ったためであると私自身、来日当初は信じていたのだが、事実はその逆であり、「和」が要求する先のような伝統的価値に日本があまりにも固執しつづけているからにほかならない(287頁)。」 本書は、ロンドン大学教授の日本滞在記をエッセイとして纏めたもの。日本人の若い世代が歯痒く感じているであろう日本社会の旧態依然とした秩序や伝統的価値が、外国人の目を通して具体的かつ鮮明に相対化されている。9章「鼠と寿司屋の親父」が特に印象的。
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『「ただ一人」生きる思想 ヨーロッパ思想の源流から』
八木雄二著(ちくま新書 2004年)
「「個の思想」は、社会との不適合を前提として、それでも自己個人に生きる価値を見いだす思想である(89頁)。」 本書は、周りから孤立することをおそれないために生まれてきた思想「個人主義」について、古代哲学から中世哲学に至るまでの哲学の歴史をひもとき、欧州の個人主義の中身が持つ意味を明らかにしている。日本人はヨーロッパの精密な哲学議論に触れて劣等感を覚えてしまいがちであるが、違いは脳にあるのではなく、歴史にあるだけだと知ることが大切。
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『哲学問題としてのテクノロジー ダイダロスの迷宮と翼』
室井尚著(講談社選書メチエ 2000年)
「技術やテクノロジーはもともと人間という過剰性を内に持った生命体の分泌物であった。今やぼくたちは自分たちが吐き出したその分泌物に溺れて窒息しそうになってきている。だが、それと同時にそこには、ぼくたちの生命の根源に隠された秘密と初めて触れ合うことができる可能性が含まれている(196頁)。」 もともと人間によって考え出された人工的なシステム(資本主義経済、科学技術etc.)が、逆に人間を支配する自走的なシステムになってしまった。本書では、人間がそのシステムに抗って「主体」性を回復するためのヒントが提供される。
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『ノイマンの夢・近代の欲望 情報化社会を解体する』
佐藤俊樹著(講談社選書メチエ 1996年)
「情報技術と個人との関係を解く鍵は、「情報技術に何ができるか」ではなく、「近代的な<個人>とは何なのかにあるのだ(80頁)。」 本書は、技術が社会を変革するという立場に立つ技術決定論・情報化社会論を批判的に検討し、社会そのものの大きな変化がその背後にあって、それが情報技術の使い方と個人のあり方を決めていると指摘している。いつまでたっても実現せぬ「情報化社会」を夢見る現実の「情報化」社会にあって、社会と情報技術の関係性と「個人」の立ち位置を見通すための指針を与えてくれる。
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『タテ社会の人間関係』
中根千枝著(講談社現代新書 1967年)
「一体感によって養成される枠の強固さ、集団の孤立性は、同時に、枠の外にある同一資格者の間に溝をつくり、一方、枠の中にある資格の異なる者の間の距離をちぢめ、資格による同類集団の機能を麻痺させる役割をなす(46頁)。」 本書は、社会を構成する諸要素の中で最も変わりにくい部分(個人と個人、個人と集団、集団と集団の関係)の考察によって、日本社会の構造的特徴(「タテ社会」、「場」を強調し「ウチ」「ソト」を強く意識するetc.)を抽出。40年以上前に指摘された日本社会の構造的特徴は、今日も依然として変わらない。姉妹編は『タテ社会の力学』。
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