池田 伸 先生(経営学部)
2019.01.06
テーマ別英国文学案内:旅・女子・怪奇
紹介者は英文学を専門としないがクリエイティブ産業について研究しているので,そのコンテントの一つである小説,たとえばいまより少し昔(おもに17-19世紀)の英国(以下ブリテン島と周辺地域の意)やその英語の文学についてたまたま考えてみた;
- 英国(関係の-以下同じ)人はなぜアジアや極東,日本などまで(平気で)来るのか。旅行や冒険,オリエントへの関心はどのように生じ育まれたのか。
- 英国作家には女子が多い気がする(日本では総活躍でない??)。そうならなぜなのか,またそこではどのような主題が展開されているのか。
- 英国文学の様式には近代初期から破格のメタフィクションがあり,内容的にもゴーストものや(反)ユートピアものがファンタジーにつながる気がする。
これらの系列に沿って(ほぼ)英国における小説の(ほぼ)大作家の古典(カノン)について案内する。カノンcanonとは,解釈の変異や消長はあるが,英国なり欧州なりの文化圏での共通した正統な知識の基準とみなされる書物である。あまりに現代的なのは適さないので20世紀初頭までを考える。「文化圏で共通した正統な知識の基準」とはすでに問題含みであるが,簡単にいえば時代の教科書に出てきて習いそう,という作品である。
カノンは誰が決めるのでもないが決まっているようなものである。今回はそれを3つのテーマの系列とした。すなわち,「旅・女子・怪奇」である。このテーマ自体が目新しいつもりであるし,系列間の重複やねじれも玩味してほしい(他の系列要素を含んでいる)。
ただし,紹介者の勝手な趣向が優りすぎたり反対に読んでいないため必須なのに取上げられなかったりする作家や作品が当然存在する。また,不正確な情報などありうるので前もってお詫びと注意喚起しておく。筆者は英国に行ったこともなければとくに含むところもないが,この読書案内によって異なる視点や発想を提供できればと思う。みなさんはふだん各専門の勉強や研究にいそしんでいると思うが,そのための直線的な知識の獲得とは別の比較文学的読書もあるのですよ…
Digressions, incontestably, are the sun-shine ; ---- they are the life, the soul of reading ;
(The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman)
I 旅する英国文学
近代に入り英国の良家の子弟が欧州大陸諸国をめぐるグランド・ツアーが盛んになったが実はそれははずしてある。そのような整然とした意思的な旅行ではなく,諸般の事情から移動を余儀なくされその状況に立ち向かうような旅,まさに人生そのものを旅に託したケースを集めてみた。ただ,それは陰に陽に多く大英帝国の版図にかかわるものであった。
『倫敦塔 ; 幻影の盾 : 他五篇』
夏目 漱石 著
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『テンペスト』
シェイクスピア 著
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『ロビンソン・クルーソー 上 ・下』
デフォー 著
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『ガリヴァー旅行記』
スウィフト 著
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『タイム・マシン : 他九篇』
H. G. ウエルズ 著
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『タイムマシン』
H. G. ウエルズ 著
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『神々の国の首都』
小泉 八雲 著
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『明治日本の面影』
小泉 八雲 著
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『闇の奥』
コンラッド 著
II 女子の英国文学
昔は閨秀作家などと特別扱いしていたが,それにしても英国文学史上の最初期作に作家・主人公ともに女子のアフラ・ベーンの「オルノコ」がある。この作は「三四郎」で友人が「かわいそうだたほれたってことよ」と訳して暗闇先生にお下劣としかられることで有名?で,系列1との関連でも逸することができないが,紹介者未読のため掲載できない。ここでは女子の作家の作品と女子が主人公である作品(または両方)とを紹介しよう。
『高慢と偏見 上・下』
ジェーン ・ オースティン 著
『フランケンシュタイン』
メアリー ・ シェリー 著
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『ジェイン・エア 上・下』
シャーロット ・ ブロンテ 著
『嵐が丘 上・下』
エミリー ・ ブロンテ 著
『サイラス・マーナー』
ジョージ ・ エリオット 著
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『テス 上・下』
ハーディ 著
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『ダブリンの市民』
ジョイス 著
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『灯台へ』
ヴァージニア ・ ウルフ 著
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『ベーオウルフ』
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Ⅲ 怪奇とファンタジーの英国文学
英国人は怪異な物語を好むといわれるがどうか。怪異とは自らとは違った異文化体験の表現であろう。その源泉の一つは系列Iで大陸やアジア・オリエントの文化として取上げたが,ここではそれらを背景にした別の系統を考える。近代化における政治的宗教的葛藤(国教会の成立と国民国家)ともかかわり破格の小説(というか何というか)が「パメラ」より先に出現する(未読です)。つまりフィクションの成立以前にメタフィクションが現われるのである。さらに中世への郷愁としてゴシックノベルからファンタジーや近代推理小説への流れがあり,また社会科学とも踵を接した(反)ユートピア小説からSFへ続く系統があるように思われる。近代化に先んじた英国ならではかもしれない。
『ユートピア』
トマス ・ モア 著
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『桶物語 ; 書物戦争 : 他1篇』
スウィフト 著
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『文学論 上・下』
夏目 漱石 著
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『文学評論 上・下』
夏目 漱石 著
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『ハムレット』
シェイクスピア 著
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『ハムレット Q1』
シェイクスピア 著
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『クリスマス・キャロル』
ディケンズ 著
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『怪談 : 不思議なことの物語と研究』
ラフカディオ ・ ハーン 著
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『怪談・奇談』
小泉 八雲 著
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『ドリアン・グレイの肖像』
ワイルド 著
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『ジーキル博士とハイド氏』
スティーヴンスン 著
番外
S.モームを本リストから落としてしまったが,彼は戦後「世界十大小説」で3つの作品を英国文学から採用している。うち2つは本リストの系列IIに入っている作品である(調べてみて)。米国向けに書かれた彼の「読書案内」(1940)では,
…as the plain man with a proper interest in humanity. The first thing I have asked of a book before I put it on my list was that it should be readable. (Books and You)
と選書の考え方が述べられているが,本企画も同様の精神である。
その他,英国文学全般について総記的に石塚久郎他編著(2014)「イギリス文学入門」三修社等を参照した。