立命館大学図書館

   
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「第7回:生き方を学ぶ」紀國 洋 先生(経済学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 伊藤、松山

紀國 洋 先生
紀國 洋 先生の研究概要

―― 先生にとって図書館はどういう場所ですか。

子供の頃から本が好きで、よく図書館に通っていました。今は本を楽しむためにではなく、仕事や研究のために図書館を利用することが多いです。また、私の研究に使う文献は、電子ジャーナルから入手できることが多いので、図書館へ行く機会が減っていますね。それでも、図書館で本を探すことで、予期せぬ発見をすることもあります。

―― どのような発見ですか?

目的の本が決まっている場合、図書館でその本を見つけたら、用はそれで終わりなのですが、その本の周りを見渡すと、気になるタイトルの本が目に留まります。それが新しい研究課題の発掘につながることもあります。学生の皆さんは何かを調べるときインターネットで済ませてしまうことが多いのではないでしょうか?インターネットは情報を効率的に収集するには便利な道具なのですが、新たな発想は、図書館に並んでいる本のタイトルを端から眺めていったり、聞や雑誌をパラパラめくっているときに浮かんだりするものです。

―― レポートを書く時などに参考にします。ところで、先生はどんな本をよく読まれますか?

専門以外で読む本では、今はもっぱら歴史小説ですね。歴史小説を読むと、歴史的な決断の場に立ち会っている気分になれます。自分ならどのような決断をするだろうかなどと考えながら読んでいます。

―― お薦めの本はありますか。

古今東西のどの歴史も好きなのですが、一冊だけと言われれば、学生時代に読んだ司馬遼太郎の『翔ぶが如く』を挙げたいと思います。明治政府設立後、全く新しい政治経済の体制を立ち上げるため、旧体制を徹底的に破壊しなければなりませんでした。そのことから生じる非難を一身に引き受けて改革を断行した大久保と、新旧の体制の軋轢の中に身を捧げた西郷は、最後は異なる道を歩むことになりました。学生時代に憧れたのは大久保で、今は西郷にもシンパシーを感じます。

―― では、学生時代に影響を受けた本は何ですか?

中学時代は自然科学と哲学が好きで、科学関係は講談社のブルーバックスシリーズ、哲学関係は岩波文庫、岩波新書を読んでいました。その中で強く印象に残っているのは、エンゲルスの『空想より科学へ―社会主義の発展』です。悪い意味で(?)人生で最も影響を受けたのは太宰治です。高校1年の時に読んだ『人間失格』がきっかけでした。いわゆる太宰に「かぶれる」というやつで、高校時代はあらゆることに身が入らなくなっていました。大学時代は先ほど紹介した『人間失格』と吉田満の『戦艦大和ノ最期』に感動しました。社会人になってからは、内村鑑三の『代表的日本人』を読んで自分に足りないものを気づかされました。

―― なるほど。幅広いジャンルの本を読まれていたんですね。

人によって抱えている問題は違います。だから、何に感動するかも違ってくるでしょう。本を読んで感動するというのは、潜在的にその人の中に“モヤモヤした何か”があって、本を通じて引き出されるのだと思います。問題を多く抱えている人ほど、感動に出会いやすいのではないでしょうか。

―― 本を読まない学生についてどう思いますか。

もったいないと思います。人と出合って価値観が変わるのと同じように、本に出会って価値観が変わることがあります。価値観が変わるというのは生まれ変わるようなものですから。

―― 学生に推薦する本があれば教えてください。

経済学の考え方の基本が学べる本としてソーウェルの『入門経済学―グラフ・数式のない教科書』は良い本だと思います。経済学の応用範囲の広さや意外性を感じられる本として、『ヤバい経済学』や『市場を創る―バザールからネット取引まで―』がお薦めです。『ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が一冊で分かる-』は経済学がどこに向かっているのかを教えてくれます。本学の松尾先生の『商人道ノスヽメ』は社会システムを論じた本ですが、面白い視点の本だと思います。

―― 面白そうですね。是非読んでみたいです。図書館の使い方のアドバイスを教えてください。

研究の題材を探すのであれば、メディアライブラリーの5階の基礎文献資料に当たると良いと思います。基礎文献資料とは、年鑑、白書、統計資料のことです。実は、これらの資料の多くがインターネットからも得ることができます。しかし、世の中にどのような統計・調査があるかを、ある程度頭に入れておかなければ、インターネット上の資料は使いこなせません。そのためにも、図書館で基礎文献資料をざっと見ておく必要があります。

―― 私も利用したいと思います。

私が立命館に赴任して驚いたのは、立命館のデータベースの種類の豊富さです。学生時代、データを集めるのにとても苦労したので、今の学生がうらやましいです。昔は、数千個のデータを一旦手書きでノートに書き写し、それを大型計算機センターに行って、手入力していましたから。

―― 昔の学生は大変だったのですね。本の読み方に関してはどうですか?

本を通していろいろな人の考え方に触れることができます。知識を吸収することも重要なのですが、自分とは違うものの見方や考え方を教えてくれるのが本の役割だと思います。時々、著者の価値観が自分と違いすぎると、読んでいてフラストレーションを感じることがあります。でも、それはそれで勉強になるかもしれません。

―― どんな本からも学ぶものがあるんですね。

最近、ベストセラーになっていたある本を読んでみたところ、著者の考え方に違和感を覚えて、数ページで閉じてしまいました。でも最後まで読んでみなければ、その本を評価できないと思い、もう一度手に取りました。最後まで読んでみて、著者の意見の多くは参考にはならないものでしたが、共感できるところも二、三ありました。人との付き合いもそうかもしれません。大学時代は自分と合わない人と付き合わなくてもすみます。でも、社会に出れば、合わない人とも仕事をしなければなりません。そういう場合は、避けるよりも、自分から積極的に話す機会を持った方が良いというのが私が得た教訓です。

―― え!苦手な人に対してもですか?

苦手だと思うのは、恐らく向こうもそう思っていると思いますよ。話に行ってその人をよく知れば、最初の印象とは変わるかもしれません。

―― 先生の読書法は生き方にも反映されているんですね。
本日教わった本の読み方や図書館の使い方は、是非参考にしていきたいと思います。素晴らしいお話をありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

翔ぶが如く / 司馬遼太郎著、文藝春秋、1980
空想より科学へ―社会主義の発展 / フリードリッヒ・エンゲルス著; 大内兵衛訳、岩波書店、1966
人間失格 / 太宰治著、新潮社、1952
戦艦大和ノ最期 / 吉田満著、講談社、1981
代表的日本人 / 内村鑑三、岩波書店、1995
入門経済学―グラフ・数式のない教科書 / トマス・ソーウェル著; 加藤寛監訳、ダイヤモンド社、2003
ヤバい経済学 / スティーヴン・D・レヴィット[ほか]著; 望月衛訳、東洋経済新報社、2007
市場を創る―バザールからネット取引まで― / ジョン・マクラミン著 ; 瀧澤弘和訳、NTT出版社、2007
ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が一冊で分かる- / ダイアン・コイル著 ; 室田秦弘「ほか」訳、インターシフト社、2008
商人道ノスヽメ / 松尾匡、藤原書店、2009