立命館大学図書館

   
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「第15回:学生の居場所」山下 秋二 先生(産業社会学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 青柳、土肥、前田

山下 秋二 先生
山下 秋二 先生の研究概要

―― 学生時代に影響を受けた本はありますか。

『パーソナルインフルエンス』です。ぶらっとでかけてみて本棚を見て、なんじゃこりゃという感じで開いたのがきっかけで読みました。当時全部カタカナの本って珍しかったんですよ。今にしてみたらたいした本じゃなかったかもしれないんですが。
内容はアメリカの大統領選挙に影響を与えた人が何と言ったのか、どういう人なのかという本なんです。この本は早い話、人がどう影響を与えるだとかを、実際に証明できる形で書かれているわけです。
例えば、人に影響を与えるいわゆるオピニオンリーダーといわれる人達っていうのは、非常に著名な大学者を思い浮かべやすいです。でも実際は、「日常的な人間関係」が人を動かしているというのがわかるし、文書だけでなくどうやってそういうことを証明したら良いのかって言うのがこの本には書かれているんです。そういうふうに本を読んでいる内に、どうして人はお互いに足引っ張っているのかっていうのがイメージしやすくなったというわけです。それがとても役立ったし、自分の進む道とかに関わってきたんです。
つまり本でありながら一つの論文みたいな一貫性があるわけです。だからそういう意味ではそれが、自分の専門領域でなくてもこうすれば物事っていうものを整理できるんじゃないだろうかということを、覚えられるわけです。
いわゆる大きな理論だとか、いわゆるグランドセオリーだとかにあこがれて勉強する人もいるようですが、みんながみんな大きな理論に触れないと、勉強したことにならないというのは、僕は誤りだと思うんです。僕なんかも非常に平凡な学生だったんですが、そういう平均的な学生にとって必要な本はなにかっていうと、僕も60過ぎて振り返って、この本だったんじゃないかなって、思いました。

―― 学生時代の図書館の利用頻度・利用方法を教えてください。

月に一、二回程度ですが、当時は行ったほうなんですよ。だから行ったからたまたま「お、なんだこのカタカナの本は」って出会えたわけですよ。うまくいえないけれど、これはいま新聞とかで、最近の大学生が話題になっているけど、友達がいないのが、その人格を全部否定するような風に学生自身が勘違いしているようですが、僕はよくわからない。当時友達がいないことが自分の自慢だったので、それを堂々と示せる場所が実は図書館だったというわけです。
食堂や、人が多く歩いている広場で一人で居ると恥ずかしくなるじゃないですか。だけど、図書館ではわいわい騒いでいるほうがおかしいでしょう。一人で本をさがすとか、勉強するっていうのは胸張って出来るひとりぼっちじゃないですか。だからそういう意味で学生時代使っていたのかもしれません。何をするわけでもなく、もちろん、特別な論文を書こうとかそういうことではなくて、自分の居場所として、ただ自然に行って、本棚を眺めていたら『パーソナルインフルエンス』に出会ったということです。

―― 現在の図書館の利用頻度・利用方法を教えてください。

あまり行かなくなりましたね。なぜ行かないかっていうと、今はデータベースの時代で、検索用に図書館があるように思うのです。だから論文を書こうと思って文献を確認しようとすると、全国のネットワークを使って調べてもらえるわけです。そういう面ではすごく便利なのですが、本との巡り合い、出会うチャンスが大事だと思います。だから図書館というものは、そういうものであるべきだと思っています。僕はどちらかというと、「現物主義」なんですね。そこに、ほしい本が手元になければ気がすまないので、正直言って図書館より本屋さんの方に良く行きます。けれど『パーソナルインフルエンス』のような専門書は書店にはありません。だから、研究とかにめぐり合えるって言う意味で、大学の図書館のような場所は価値があると思います。

―― 小説などは読まれますか?

松本清張がすきです。
僕はこの本は社会学の本だと思っています。日本の社会はどうなっているかっていうのはあれを読んだほうが、マルクスなんかを読むよりもわかるものなのです。つまり一番最初に挙げた『パーソナルインフルエンス』と同じ、同種類の本なんです。およそ人はそれが松本清張と同じだと思いません。けれど実際読んでみると、昭和時代の日本の社会とか、あるいは、清張がもともと考古学の専門みたいだから、そういった歴史学と考古学の話などそういったことも細かく書かれているのです。
だけど考古学や歴史学や社会学もそうだけど、そういった専門書だってボーンと積まれたら読めないですよね。学生さんのその気持ちは良くわかります。そういう意味では、身近にある専門書だと思っています。そんなことをいうとしかられるかもしれないですけど。

―― 松本清張のほかに何の小説を読まれるんですか。

そんなに難くない、司馬遼太郎だとかですね。松本清張だって社会学だと思って読むと全然楽しくない。推理小説だと思って読むから面白い。ぱっと気づいたら、え?と推理小説であることを忘れてしまうけれど、あぁ昭和時代ってこんな感じだったのかという、僕らは当時子どもだったからわからなかったことがわかったりするんです。
そういうのだと思います。割とあっさりしたのがすきです。松本清張だってごちゃっとしていないし。今たまたま読んでいるのが『街場のメディア論』という新書です。学生さんには抽象的かもしれないけれど、面白いです。
最近は何でもいいから読みやすいもの、こういう身近な、大学生の心構えみたいなものが最近なくなっていますからね。なんでもいい、そういうきっかけがいると思います。本屋の新刊コーナーみたいなところにさえ、行かない子もいるので、そこにあるような本を置くといいのかもしれませんね。

―― ちなみに本学図書館では「読楽コーナー」という文学賞受賞作品やベストセラーの本を置いているコーナーもあります。

そういったものを、もっと知らせてほしいですね。図書館に行けばわかるんじゃなくて、図書館に行かない学生にも、もっと知らせてあげないといけないんじゃないかなと思います。

―― その他の本の探し方で、以前答えていただいたアンケートには「研究のテーマやトピックスを求めて本を探すより、研究方法のヒントになるような本を、専門分野を問わず探すことを薦める」とありますが?

さっきのグランドセオリーもそうだけど、自分は社会学だからマルクスだとかマックスウェーバーだとか、そういうものを読まなきゃいけない、というふうにして最初にテーマを決めてしまうと、ちゃんと読みこなせる人以外は、読みこなすだけになってしまいます。
それは読んだという、それ以上のものがない。学生さんに大切な若い力、クリエイティブな力を養えないような気がします。そういう意味では、松本清張がそうだというわけではないけど、特に研究方法的なものを学ぶっていうのは、ある一つの理論に近づくのに近道なんです。
みんなは、図書館へ行くのに卒論の研究のテーマだとかゼミのテーマを探しに行ってしまう。テーマを探すと手っ取り早い話がそこに書いてあるから、それを報告して得意げになってしまうけれど、そんなもの良く考えてみれば、大概みんな探せばすぐわかる情報であったりするんです。これは面白い考え方だなっていうのを、見つけられない。
それは与えられてしまうっていう可能性が高いわけです。それって大切なことなんじゃないかなって思います。だから自分に手に届く、自分がこれからこのことをまとめたり、研究したりする方法をつかむような本にめぐり合わないと。

―― 図書館への意見・要望をお願いします。

やはり図書館こそ一人一人の学生さんの居場所づくりに貢献すべきではないか、それが大学の図書館の使命であるべきだと私は思っています。だから一人胸張って、そこに一人でいられるという空間を作ってほしいですね。
いつでもそこに行けば自分は学者にもなれるし、学生にもなれるし、図書館にいったら一人の人間になれるというそういうものであってほしいです。
ついでにいうと、いま図書館の戦略でもっと学生に学びの場をという「学びのコミュニティ」というもの、そういうものを造ろうとする動きが図書館にはあるらしいですね。これは、僕は冗談じゃないと思うんです。そういうことされたら、友達が居ないって胸張って自慢できる場がなくなってしまうわけです。
こういう考えはおかしいけれど、せめて図書館だけはそういう場所であるって言うことを、失わないでほしいと思います。そこへ行っても最近は「○○コミュニティ」って銘打ってしまうから、学生はおそらく息苦しくなってしまうのだと思います。図書館行ったらみんなと会話しなきゃいけない、という風になってしまうのは、これは困ります。

―― 以前答えていただいたアンケートには「ゼミなどで使用する本が不足している」とありますが?

現実問題として、特に僕がいる学部は社会学っていうのだから何でもありのような学部なのです。そのテーマを探すのは、別に図書館に行かなくても今の学生さんは作れるのですが、それを研究する本がどこにあるのっていうと、探せないわけです。だから先生が一つのテーマとしてまとめ上げた書籍コーナーというのがあると、「ああこの先生の考えっていうのはこういう本でできあがってるのか」っていうのがわかりますよね。
それぐらいのことがさっとわかるようにしておくと、いろいろ考えてステップアップできるわけですね。また、先生自身がもっと肩の力を抜いて、学生の目線に立ってその立場になって、今自分が学生だったらどんな本が必要なんだろうっていうのを紹介するコーナーがあったほうがいいんじゃないかなと思います。
ゼミを選ぶときなんかも、そのコーナーにいって本を見るだけでいいのではないかと思いますね。

―― 他大学・外国と比較して立命館大学の図書館をどう思われますか。

分野の偏りがあります。例えば僕らの分野だとスポーツ関係の本が全部BKCにとられたって学生がみんな怒っていますね(笑)。それは別にそういう専門書が必要とかっていうのではなくて、その先生に必要なそのゼミに必要な、学生さんに必要な本がもっと身近なところにおいておかないと図書館に対する親しみがわいてこないわけです。平均的な学生さんに図書館の魅力を高めるためには、一つはそういう身近なゼミの先生を知るっていうようなためのコーナー、もう一つは友達がいないようなことを自慢できるような居場所、この二つだと思うんです。

―― 本日は貴重なお話を、ありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

パーソナル・インフルエンス/E・カッツ、P・F・ラザースフェルド竹内郁郎訳/培風館出版 1972
街場のメディア論/内田樹/光文社/2010