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「第23回:本には読む時期がある」田村 秀行 先生(情報理工学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 宮城、平井

田村 秀行 先生

田村 秀行 先生の研究概要

―― 先生は,学生時代に図書館を利用されましたか?

学生時代は,図書館に入り浸りでしたよ。我々の時代は,自宅は狭いし,研究室配属されても学部生には自分の机は与えられなかったので,勉強するには図書館に行くしかなかったのです(笑)。図書館には,2つ役割があると思っています。勿論,貴重な蔵書が揃っている場所で,それを借りに行くところであり,もう1つは勉強をする場所です。後者の目的で図書館を利用しに行ったのに,書庫をブラブラ眺めているうちに,「こんな本があったのか!」と発見することもよくありました。思わぬ本との偶然の出会いですね。
今は,ネット経由で本を買うことも多いですが,知識の源たる本とのそういう遭遇も体験して欲しいですね。

―― ご自分でも沢山本を買われていたのでしょうか?

今もそうですが,昔もよく買いましたよ。出会いや貴重な本は図書館を頼っても,入手できるものは自分で揃えました。学生時代はお金がなく,欲しい本を買うのに苦労するからこそ,熱心に読むし,愛着も湧いてくるんだと思います。例えば,この計算機の本は40年以上前に1,800円もしました。当時は,確か1日のバイト代が800円だったから,随分高いですね。今は相対的に本の値段が安くなっているのに,学生諸君はバイトはしても,本は買いませんね(笑).学生なら,もっと買ってもいいはずですね。
小中学生の頃から夏休みの読書課題を出されたでしょうが,無理矢理読まされて身に付くものではなく,自分から読みたくなる時期があると思います。学生時代は「寺田寅彦随筆集」が愛読書の1つでした。物理学者で作家で,夏目漱石の門下生だった人です。その中に,「本には読むべき時期がある。今興味がなくても,人生の中で必要となる時期があるので,その時に読めば良い」という風なことが書いてあり,それに感銘を受けました。義務感や強迫観念から読むのでなく,読みたい時に読むというスタンスの方が,却って興味が湧くのだと思います。

―― 学生向けの,何かオススメの本はありますか?

きっと尋ねられると思って,答えを用意しておきました(笑〕。2冊あります。理系の学生にとっての啓蒙書ですが,文系の学生諸君にもスラスラ読めると思います。
1冊目は,「思考のための道具-異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?」(ハワード・ラインゴールド著,栗田昭平監訳,パソーナルメディア刊)という本です。著者は研空者でなく,ジャーナリストで,コンピュータを計算のための機械でなく,人間の力を増幅させるためのものという考え方の由来を分かりやすく解説しています。人工知能やメディアテクノロジーの発端もここにあります。少し古い本ですが,最近確か新版(新・思考のための道具 : 知性を拡張するためのテクノロジー : その歴史と未来)が出ていたはずです。
2冊目は,「HAL伝説-2001年コンピュータの夢と現実」(ディヴィッド・G・ストーク編著,日暮雅道訳,早川書房刊)です。HALとは,1968年公開のSF映画『2001年宇宙の旅』に登場するスーパーコンピュータの名前で,高度な知能をもち,人間に対して叛乱を起こすという存在です。20世紀から見た未来,21世紀の夢,人工知能の実現の象徴でした。原作小説中でHALは1997年に製造されたことになっていたので,それを記念して,その年に出版された本です。実際に1997年になって,HALを実現する要素技術はどこまで完成したのか,自然言語理解,音声認識,画像認識等の立場から,一流の研究者たちが大真面目に論じています。この映画を観てから,本を読むと一層感慨深いと思います。

―― 最後に,図書館のアピールしていただけますか。

インターネット,Webの登場により,情報の収集の仕方も図書館の存在も,かなり変わりましたね。変わらざる得ない時代です。Webから手軽に情報は得られるようになったけれど,やはり人類の叡知は,古今東西の書物の中にあると思います。その半面,学会の予稿集・論文集は,電子版で容易に検索・入手できることが便利だし,それを図書館がサポートして下さるのはとても有り難いことです。
また,これからの主流は電子書籍であり,紙の書籍は無くなるのではないかという論議もありますが,私は無くなる訳はないと思っています。
ちょっと逆の方向から考えてみて下さい。もし,ディスプレイで見る電子文書が先に存在していて,最近,ようやくそれを印刷・製本する技術が出来上がり,紙に大量の情報を印字した「本」というものが登場したと……。即ち,こんなに綺麗な字体で,読みやすく,かつコンパクトな形状,重さの本が,大量に印刷でき,誰もが手できる価格で提供できる技術が生まれたと。もしその順序だったなら,このハンディさ,情報量の多さは驚くべき魅力であり,世の中はこの発明に大騒ぎしているはずです。
皆さんもそういう視点に立って,本の有り難みを感じつつ,図書館とネット上の情報源を上手く使い分けられるようになって下さい。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回の対談で紹介した本

思考のための道具-異端の天才たちはコンピュータに何を求めたか?/ハワード・ラインゴールド著 ; 青木真美訳/パーソナルメディア/1987.12
新・思考のための道具 : 知性を拡張するためのテクノロジー : その歴史と未来/ハワード・ラインゴールド著 ; 日暮雅通訳/パーソナルメディア/2006.6
HAL (ハル) 伝説 : 2001年コンピュータの夢と現実 /デイヴィッド・G・ストーク編/早川書房/1997.7