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「第68回:考えを形作る読書体験」菅原 祐二 先生(理工学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 影山、鎌田

2019.01.31

―菅原先生の研究テーマである素粒子論について教えてください。

どこまで詳しく話したらいいか分からないのですが、素粒子論とは物理学の中でも基礎的な分野で、大きく言うと自然法則の根源を知ることを目的としています。素粒子というと物質を構成する最小の粒子というようなイメージがありますが、素粒子論は自然界の根源的な力である電磁気力や重力などの研究を行う分野でもあります。ですから、素粒子自体は原子核より小さなスケールの話であると同時に、宇宙がどうできたかというマクロな話にも関わりがあります。しかし、ミクロな理論である量子力学と、マクロな理論である重力理論を同時に議論しようとする際、素粒子を点として捉えてしまうと矛盾が発生することが分かっています。そこで生まれた理論がストリング理論で、この理論では素粒子を点ではなく、紐や弦といったイメージで捉えることでその矛盾を解消します。そして、このストリング理論をさらに発展させた超弦理論が私の研究分野となっています。ストリング理論は素粒子物理学ではそれなりに主流で、素粒子の理論研究に携わる研究者のだいたい50%くらいはストリングの研究をしています。ストリング理論は基本法則から矛盾の無い結論を導こうというスタンスでの研究なので、実験データをもとに理論を展開する現象論的なアプローチの研究とはまた違いますが、近年そういった研究との交流も盛んになってきました。また、ストリング理論は数学的な親和性も高くて、ストリング理論の研究から新しい数学の分野が生まれたり、数学者が研究テーマを探すときにストリング理論を参考にしたりするときもあるようです。

―菅原先生が理論物理学を専攻しようとしたきっかけを教えてください。

そうですね、あまり詳しく覚えていないのですが、子供のころから理科が好きだった記憶があります。でも、本格的に物理学を意識したのは中学生のころ、ブルーバックスシリーズの本に出会ってからですね。ブルーバックスといえば一般向けの本ですが、当時はよくわからない話も多くて、そこで不思議に思ったこと、興味深く感じたことが物理学を専攻するモチベーションにつながりました。大学では数学を専攻するか理論物理を専攻するか迷いましたが、結局理論物理をやることにしました。あと、実験は苦手だったので実験系にいくつもりはありませんでした。実験が得意な人はたいてい整理整頓が上手な人なんですよ、私と違って(笑)。

―今までの読書体験を教えてください。

そうですね、あまり良いメッセージとしてお伝え出来ないかもしれませんが、小学生の時は学校の図書館で借りたものと親に買ってもらったものを読んでいましたね。学校の図書館では主にSF小説を借りていました。親に買ってもらったものとしては、小学館の『○○入門』シリーズや将棋、日本史についてなど雑学系のものが中心でしたね。このころから理科に興味はあったのですが、先ほども言いましたように中学生になってから講談社のブルーバックスも読むようになり、この頃から物理学に興味を持つようになりましたね。高校生になってからは、あまり褒められるようなものではないのですが、SF小説やミステリー小説の文庫本を読んでいました。SF小説はアイザック・アシモフとか、ミステリー小説はアガサ・クリスティーやディクソン・カーとかそこら辺を読みましたね。これは大学に入ってからも続きました。新日本文学や謎解きものも読みましたね。社会派の松本清張は読んでいて暗い気持ちになるのが嫌でね、あまり読みませんでした(笑)。大学に入ってからは、吉川英治の『三国志』から入って、司馬遼太郎などの他の作家の本も読みました。他に芥川龍之介や太宰治といった短編物も読みましたが、太宰治の作品は精神衛生上よろしくないものが多かったですね(笑)。もちろんこの他に物理の専門書も読みましたよ。大学での授業の参考としてね。

菅原 祐二 先生(理工学部)

―学生時代、どのように図書館を利用されていましたか。

これに関しては今の学生と変わりませんよ。主に大学での授業の参考文献を探す程度でしたね。今でも熱心な学生は我々に将来に向けて読んでおくべき本やお薦めの本など聞いてきたりしますが、私はそういったことはしなかったですね。他に自分の専門外の分野で面白そうな本を借りては読んでいました。大学院生になると研究室に自分の席が与えられたりしますが、学部生の時はそういったものがないですから、授業の空きコマや試験勉強などで図書館を利用することはありましたね。今は角部屋とかここ(ウエストウイング)の1階にぴあらもありますからそういった場所も空きコマや試験勉強に利用できていいですね。

―これまでに影響を受けた本やおすすめの本がございましたら教えてください。

これはなかなか難しい質問ですね。(笑)影響を受けたというよりはインパクトのあった、衝撃を受けたものになるんですが、白土三平の『カムイ伝』っていう江戸時代を舞台にした漫画の劇画作品がありましてね。私より上の年代の方で1970年代くらいの東大紛争の時に学生が読んでいた、なんて話もあるんですが、これは高校生か大学生の時に読んでインパクトを受けましたね。おすすめの本についてですが、物理法則について一般向けに分かりやすく書かれたものとしてファインマンの『物理法則はいかにして発見されたか』という本がありまして、これは現在の私の専門にも影響を与えた本と言えるかと思います。それから、私の専門とは関係がないですが、物理の専門書以外で興味を持っていたものでSF小説、ミステリー小説、歴史小説は専門以外の部分での自分の考えを形作るものになったと思いますね。

―大学生活中に学生が読んでおくべき本がありましたら教えてください。

そうですね、ちゃんとした答えになるかどうかはわかりませんが、大学院に進んだり社会人になるとどうしても自分の仕事や研究に直結した狭い範囲の内容を扱った本を読まなくてはなりません。自分の専門外の本は読む機会が圧倒的に減るんですね。ですから、学部生のうちは自分が興味を持ったものを読んでおくと良いと思いますよ。単位を取るため、成績のためとかだけじゃなくて何かの拍子に興味を持ったものをじっくりと読んでみてほしいと思います。時間があるはずですから。これは物理科学科の学生向けになるんですが、物理の専門書で印象に残っているものでディラックの『量子力学』というものがありまして、これはディラック独自の視点で書かれたものになり、単位を取るため向けではないのでその意味では学生に薦めませんが、面白い本だと思います。あと、ワイルの『空間・時間・物質』という本がありまして、ワイルは物理学者でもあり数学者でもあり、最初の200ページくらいに「時間とは何か」「空間とは何か」といったことを哲学的視点から書いていまして、これは先のディラックのものよりは読みやすいかと思います。ですからじっくりと時間をかけて読んでみると良いと思います。きっと何かインスパイアされるものがあるのではないでしょうか。

―これからの図書館はどのような役割を果たす場になると思われますか。

これからの図書館では、いろいろなものが電子化されていくと思います。特に、スペースの関係などで処分せざるを得なかった古い貴重な雑誌が電子化されて、簡単にアクセスできるようになれば、図書館の持つ役割も一層広がると思います。半面、紙の本ももちろん大切なので、残していくべきだと思います。あと、教授になってしまうと、ネット通販で、しかも研究費で簡単に本を買えてしまって、読まないままのものも結構あるんですよ。その点、学生の頃、図書館で借りてコピーしたりした本は苦労して借りたりしたぶん、一生懸命勉強した記憶があります。いまの学生にとっても、図書館にはそういう、勉強を促進する役割を果たしていってほしいですね。

―最後に、学生へメッセージをお願いします。

「学生が読んでおくべき本」の質問のところでも少し述べましたが、将来のためとか、何か目的のためではなく、自分が興味を持っていることを優先させるといいと思います。この先、専門的な勉強をすると、自分の興味を持った本を読む機会は案外減ってしまいます。だから、興味を持った本は興味を持った時に、今やるべきこととは関係なく読んでおいたほうがいいと思っています。そうして読んだ本は、いつか、意識せずとも役に立つ時が来ます。一般書だけでなく、専門書も、教科書的に、簡単に知識が得られるものではなく、古い本とかで、著者の独特の視点が表れている本を読んでほしいなと思います。知識を得るという意味では回り道ですが、考え方の根本となるものを作ってくれます。最近の学生はオンラインゲームやSNSを長期間たしなむ人が多いように思えますが、やはり「本」という媒体のものを深く読み込んで、自分なりに考えるという行為にも時間を使ってほしいと思います。

―本日はありがとうございました!

今回の対談で紹介した本

『物理法則はいかにして発見されたか』、R.P.ファインマン著;江沢洋訳、2001年、岩波書店
『量子力學』、ディラック著 ; 朝永振一郎[ほか]共譯、1968年、岩波書店
『空間・時間・物質』、H.ワイル著;内山龍雄訳、2007年、筑摩書房