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「第74回:考える時間を大切に」北野 勝則 先生(情報理工学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 近藤、ショウ

2019.12.16

―先生の研究分野について教えてください。

おおまかに言うと、脳の研究をしています。脳と言っても、研究する方法は様々であって、その中でも僕は、人が様々なことをする時に、脳がいろいろな情報を処理している、そういう情報処理について研究しています。視覚、聴覚とかの感覚の情報処理や、体を実際どのように動かしているとかですね。感覚情報の処理、体を動かす時、記憶や意思決定など、実際どんなふうに処理されているかどうか、まだよくわかっていない。脳を情報処理システムとみなした場合に、その脳が実際実現している処理方法(情理的な表現でアルゴリズム)を知るというのが研究ですかね。よく、人工知能に近い感じかと聞かれるんだけど、人工知能とは少し違います。人工知能は、人工物、コンピューターとかで知能的な処理を行うことですが、僕らの研究は、その処理の方法を脳はどういう風に実現しているのか、というのが研究対象です。

―先生が脳の情報処理システムを専攻しようとしたきっかけを教えてください

僕は今は、脳科学、生物よりの研究をしていますが、元々は、工学で、ニューラルネットワークやっていました。ニューラルネットワークを大きく分けると二つあって、一つは、みなさん注目しているディープラーニングです。ディープラーニングというのは、元々パーセプトロンとか、いわゆる階層型ネットワーク。inputして、outputして学習するものです。もう一方ののちょっと違うタイプのニューラルネットワークは相互結合型ニューラルネットワークっていうんだけど、そっちの方でやってたんだよね。

あくまでその工学的な観点で、ニューラルネットワークやってたんですけども、僕が学生の時、25年ぐらい前かな?、そのときにニューラルネットはもうそんなにやることがないんじゃないかなと思っていた。ちょうどその頃、学内の近い人達が、脳の勉強をやろうと言って、工学の人とか、理学の人とか、そこに、医学部の先生がチューター的な感じで入って、脳そのものの勉強会をやりましょうってなったのがある意味きっかけだったかな。それで、脳を工学的なニューラルネットじゃなくて、脳そのものを研究するのももしかして面白いと思ってね。普通の研究するように、マウスを使って、実際に電極を差したりとか、そういった研究ではなくて、計算論、情報処理方法という観点から、研究やるのも面白いかもしれない。これが今の研究分野をはじめたきっかけだと思います。

―先生は学生時代に、図書館をどのように活用していましたか。

学生時代ですか。僕らは、今の学生と全然違って、例えば、実験とか演習の科目で、紙を一枚渡されて、それが数値計算の課題だったけど、何々の方法で調べてこい!って課題で。当時は、インターネットとか無かったわけじゃないけど、そこまで検索できなかったから、図書館へ行くしかない。図書館の数値計算のコーナーの本を片っ端から調べて、それが載っている本をひたすら探してましたね。しかもそれがまたマイナーな方法だったりしてね。そういう調べものとかは、やはり図書館に頼るしかなかった。今みたいにキーワードを入れてインターネットですぐ検索ってのが出来なかった。僕らが、ちょうど学生の時ぐらいに、いわゆるインターネットという、ウェブラウザーがでてきたかな。だから図書館は唯一のデータベースというような使い方をしていました。

―学生時代には、文献探し以外に、本とかを読みましたか。

大学の時代にあんまり読んでいないが、高校の時はたくさん読んでいました。高校の時の目標は教科書に出てくるような有名な文豪、世界的な文豪の本を一応読み終える目標がありました。全部読めなかったけど、トルストイとか、メルヴィルとか、スタンダール、いろいろな古典的な文学を一応読んでいました。

―その中で最も好きな小説は何だと思いますか。

好きな小説というか、有名な小説は、まだよく分からないまま、とりあえず読んでいました。結局身についていないが、教養として必要かなと思って読みました。名作って、当時は頑張って読んだけど、結局分からなかったな。今もしかして変わるかもしれない。

―学生におすすめ本があったら教えてください。

情理のホームページの各先生方のおすすめ本にもありますが、『生物から見た世界』ですね。もとから有名な本で、今の研究とすごく関係しているからとても印象に残っています。これは簡単に言うと、私たちが目にする光景、これが世界の真の姿とおもっているかもしれない。でも決してそうじゃない。この本にはいろいろな動物の例が出てくるのだけど、例えばカエルとかなんかは動いた物しか見えないとか。じーっとしたら見えないけど、昆虫とか動いた瞬間にパッと餌を取ろうとするんですよ。そういう風に生物によって、その視覚のシステムが違うから、見え方が他とは全然違う。例えば、色がどう見えているとか、生物が違うから、そういうのをいろいろ観察、様々な生物がどんな風に世界をとらえているか、という事が書かれている本ですね。そういう行動学から、世界はどう見えるか。そういう問題意識がないとわからないと思いますが、私たちが見えている世界がどうであるか。それが本当の姿かどうか。人の目には赤、緑、青を検出する細胞が存在していて、種によっては二種類しか無かったり、四種類あるやつだっている。絶対見え方って違うと思いませんか。あくまで見えてる世界は私たちの主観の世界でしかない。赤外線なんか見えるようになれば温度だって見える可能性だって出てくるわけだしね。この本を読むとそれに気づかされるっていう意味でそういう興味があればお勧めしたいですね。ちょっと堅苦しいけど結構面白い一冊です。

―他に先生のおすすめしたい本はありますか?

賛否両論あるけど、『ネット・バカ : インターネットがわたしたちの脳にしていること 』ですね。インターネットって今更ない世界って考えられないよね。今の人って調べものするときってまずネットを使うと思います。これからの世の中で、使わないっていう手はないとは思うんだけど、これに関しては依存しすぎてるのはあると思う。昔は調べものって図書館とか行くしかなかったから、時間もかかってたけど、今はどこからでもすぐに欲しい情報が入る時代だよね。その便利さから失ってるものって何かあると思う。例えば、今わからなことがあればすぐ調べることができる、また分からないことがあればその場で調べる。すぐに簡単に調べることができるから、じっくり一つの事を考える時間って失われてきてるんじゃないかなって思うんだよ。考える力が落ちているとまではいかないけど、知識を自分の中で反芻して整理する時間が失われてきてるんじゃないかなって思っていて、体系的に理解するっていう機会が減ってきている気がします。インターネットとかはもう無くせないものだからうまく付き合ってく必要はあるとは思うけどね。一回ちょっとインターネットを遮断してみようと思ったことがあってね、研究室で水曜はネット禁止の日ってのをやろうと思ったんだけど、すごいブーイングを食らいましたね(笑)。いままで言ってきた、固まった時間を確保するのが減ってきているってことを元に書かれた本ですね。

―研究で得られた技術は今後どのように使われると思いますか。

僕自身は目の研究をして、立命の研究プロジェクトでやってるんだけど、そこでやってるのが目の治療で、iPS細胞ってあるでしょ。iPS細胞を使って治療を行われたのって目が最初なんだよね。目の奥にある細胞を移植するんだけど、移植っていうと他人のやつを使うって思うと思うんだけど、iPS細胞は自分の細胞から培養して作成された組織を移植するっていうものになるのね。それがいろんな病気に治療に役立つと期待されていてね。目の病気は薬で治るものは少なくて、外科的治療に頼らなければならないことが多いんだよね。目が見えなくなると困ると思わない??生活もままならないと思うし、歳を取ってくると目も悪くなってくるしね。そういう病気の治療の方法として再生医療を用いて目を補う。病気の部位を入れ替えるっていうそういうのを目指している研究なんだけど。僕は3学部で共同研究をしていて、生命科学部の先生はどうやってiPS細胞から目を作るかの研究をしていて、薬学部の先生は目の組織について研究をしている。それで僕らはその目が如何にして情報を処理しているかを網膜のアルゴリズムを理解しようとしているんだけど、それを使って例えば網膜が再生できたとして、本当にそれが我々と同じ目なのか、生体の環境と培養の環境は違うから、それらの数理的な観点からの解析とかね。僕は他学部から送られてくるデータから網膜の電気信号を数式で表して、コンピューターPC上に仮想網膜を作成できるんだよね。全く同じものは作れないけど、網膜の機能とかの本質をうまくとらえたモデルが作成できれば、色々な病気などの評価の基準が作れるようになるかなって思っています。

―最後に学生に一言

自分で考えるって行為をどこかで持ってほしいなって思います。簡単に色々な情報にアクセスできる今でこそ、得た情報を伝える時に自分に何が残るのか、勉強でも遊びの事でもいいんだけどね。自分中で身に付けるプロセスとして考える行為を大切にしてほしいですね。考えるんじゃなくてもいいんだけど一つのことに対してじっくり時間をかけることでもいいと思う。今は色々なことをパラレルに少しずつできるからそれぞれの時間は断片的で情報も断片的になってくると思う。そうじゃなくて一つのことで良いから時間をかけてゆっくり消化するって時間を作ってもいいと思います。社会人になると、大学生と比べるとそういう時間って取れなくなってくるから、学生時代に是非やってほしいなと思います。

北野先生ありがとうございました!

今回の対談で紹介した本

『生物から見た世界』、ユクスキュル, クリサート著 ; 日高敏隆, 羽田節子訳、岩波文庫、2005年6月
『ネット・バカ : インターネットがわたしたちの脳にしていること』、ニコラス・G・カー著 ; 篠儀直子訳、青土社、2010年7月