平井嘉一郎氏が私たちに遺したもの、
私たちが未来へ引き継ぐもの

立命館大学図書館長
(立命館大学法学部教授)
樋爪 誠 氏

平井嘉一郎記念財団理事長 平井 信子 氏

立命館大学図書館が創立120周年を迎える2025年。 そして、衣笠キャンパスの学術研究の拠点である「平井嘉一郎記念図書館」が開館10周年を迎える2026年。この大きな節目を前に、本図書館の誕生に多大なるご尽力をいただいた平井嘉一郎記念財団理事長・平井信子氏と、樋爪誠立命館大学図書館長による対談が実現しました。
対談では、平井嘉一郎氏が抱いた「若い人たちの力になりたい」という志がいかにして本図書館の設立へと至ったのか、その歩みを振り返ります。平井氏の生前のエピソードや開館までの経緯を通じ、私たちが未来へ引き継ぐべきものについて考えます。

次世代育成への先見性 平井嘉一郎氏が抱いた少子化への懸念

樋爪誠図書館長(以下、樋爪):それでは、平井嘉一郎様のご令室であられます平井信子様から、「平井嘉一郎氏が私たちに遺したもの」というテーマについてお話しいただきたいと存じます。まずは平井嘉一郎氏の生前のお考えについてお聞きしたいと存じます。

平井信子理事長(以下、平井):主人・平井は、生前から少子化が進む状況を非常に心配しており、次世代育成への尽力を惜しみませんでした。少子化が社会問題として注目される10年以上も前から日本の現状を洞察し、いち早く行動を起こしたのは、やはり平井の先見性の一端ではなかったでしょうか。
具体的には、会社創立40周年の1990年(平成2年)8月1日、この年の人口動態統計の結果、出生率が1.57人となり、丙午だった1966年(昭和41年)の1.58人を下回る史上最低の結果になったことに心を痛めておりました。このまま少子化が進めば高齢化が加速し、国や地方自治体において大きな問題になることを、私にもよく話し、心配していたと記憶しております。

そこで、平井は「少子化への対策として、次世代を担う子どもたちの心身にあわせた健康、成長に役立つ環境整備等に」との目的で、本社のある京都市をはじめ、亀岡市・草津市・豊科町・大野市など事業所のある13の自治体に対し、総額1億円余りの寄付をさせていただきました。お金で解決されるものではありませんが、少しでも行政における施策の一助になればとの思いで寄付をさせていただいたと聞いており、その後、「さらに若い人たちの力になりたい」そんな思いをよく、私に話していました。

若き研究者の志を支える 「平井嘉一郎研究奨励賞」の創設

樋爪:平井理事長、ありがとうございました。2001年1月20日に平井嘉一郎氏が93年のご生涯を閉じられてからは、理事長がその意思を引き継がれ、継続したさまざまな社会貢献事業が行われてきたとお聞きしております。本学との関わりの深い事業についてお尋ねしたいと存じますが、まずは2006年に嘉一郎氏の母校である本学・法学研究科大学院生を支援する「平井嘉一郎研究奨励賞」を創設された経緯についてお聞きしたいと存じます。

平井:あれは2005年(平成17年)12月ごろ、生前平井がよく話していた「若い人の力になりたい」という思いを形にしたいと常々考えておりました。平井が立命館大学法学部の卒業生であったことから、当時の法学部事務長を訪問し相談させていただいたところ、「若い学生を支援いただく絶好の内容があります」とご提案いただいたのが、法学研究科と法務研究科の大学院生を対象にした「平井嘉一郎研究奨励賞」の始まりでした。
第1回の授与式は2006年(平成18年)6月23日、当時の長田総長により開催いただいたことを鮮明に覚えております。昨年5月には第20回目を仲谷総長に開催いただき、これまで99名の受賞者を輩出することができました。

樋爪:「平井嘉一郎研究奨励賞」は来年度に21回を迎え、研究者の輩出といった観点では、これまで11名の教員を輩出しており、学内にも2名の教員が所属しています。

学術研究の拠点誕生 平井嘉一郎記念図書館に込められた願い

樋爪:続いて、2016年4月に開館し、早くも10周年を迎えようとしております「平井嘉一郎記念図書館」についてお聞きしたいと存じます。1967年から長年にわたり本学学生の学びを支えてきた衣笠図書館に代わる「平井嘉一郎記念図書館」は、これまで育まれてきた学びの文化をしっかりと継承し、更なる深まりを見せてくれることを期待しています。
この図書館の設立にご寄贈いただきました理由や、ご決断をいただきましてから開館するまでの思い出に残るエピソードについてお聞かせいただきたいと存じます。

平井:今でも覚えています。2009年(平成21年)6月24日でした。当時の図書館長・吉田先生と法学部事務長の中山様が私の事務所を訪問され、吉田先生より唐突に「立命館大学衣笠キャンパスに図書館一棟を寄贈願いたい」と申し出られました。私も先生の勢いに押され「はい」とお返事した記憶がございます。
それからは、図書館建設の打ち合わせ・設計・建設と進み、吉田先生のお話から7年後の2016年(平成28年)4月1日、気品があり重厚感あふれる、平井嘉一郎の名を冠した「平井嘉一郎記念図書館」が、この京都衣笠の地に学術研究の拠点として誕生することになりました。この間、多くの皆様にお世話になり、特に当時の専務理事であり現在は理事長であられる森島理事長様には、大変お世話になりました。

先ほど樋爪図書館長様より、立命館大学図書館創設120年とお聞きし、平井嘉一郎記念図書館も120年の歴史の内、やっと10年が経過し、少しはお役に立てたのかなと思っています。来る4月1日、平井嘉一郎記念図書館は開館10周年を迎えることとなります。この10年間、樋爪館長様をはじめ図書館スタッフの皆様には色々とお世話になり、利用者が年々増加しているように聞いています。ありがとうございます。
「主人の生前の願いであった『若い人たちの力になりたい』という思いが、わずかでも形にできたのではないかと感じております。時折、泉下の主人と語り合うような心持ちになることがあり、主人も頷きながら喜んでくれているように思われます。今後も少しずつ主人の思いを形にすべく、社会貢献活動に努めてまいりたいと考えております。よろしくお願いたします。

未来への展望 時代が変わっても輝き続ける「知の宝庫」として

樋爪:本日は短い時間ではございましたが、『平井嘉一郎氏が私たちに遺してくださったもの』という、少し抽象的なテーマについてお話を伺わせていただきました。
最後に「私たちが未来へ引き継ぐもの」、言い換えれば「私たちが未来へ引き継がねばならないもの」について、僭越ながら述べさせていただきたいと存じますが、その前に、平井嘉一郎記念図書館は2026年度に開館10周年を迎えます。この先、10年後、20年後、平井嘉一郎記念図書館がどのような存在であって欲しいのか、そして、立命館大学に対する期待や要望についてお聞かせをいただけませんでしょうか。

平井:昨年の 4月1日、学校法人立命館の機構内に平井嘉一郎顕彰事業本部を創設いただきました。そして約1年が経過し、スタッフの皆さんのお陰をもって、順調に顕彰事業を進めて来ることが出来ました。また、この顕彰事業本部創設にともない、平井嘉一郎記念図書館の将来における経常的資金、また顕彰事業本部活動資金についても、立命館大学で管理いただく「平井嘉一郎基金」として整理をいただいたことにより、安心できる状態となりました。それぞれの資金についても、私は出来る限りの協力をさせていただきたいと思っています。
この先どれほど時代が移り変わろうとも、立命館大学が益々発展し、知の宝庫である平井嘉一郎記念図書館が、いつまでも若い世代の力となり続けることと、さらに、平井嘉一郎顕彰事業本部の活動がより一層推進され、平井嘉一郎の功績が末永く顕彰されますことを、私は心より願っております。

樋爪:ありがとうございました。今回、このような対談を実施させていただいたのは、図書館開館10周年を迎えるにあたり、平井信子理事長、平井嘉一郎記念財団スタッフの皆さまをはじめ、『平井嘉一郎氏が私たちに遺してくださったもの』への深い感謝の念があったからにほかなりません。この場をお借りし、改めて厚く御礼申し上げます。
「平井嘉一郎研究奨励賞」や「平井嘉一郎記念図書館」がなぜ設立され、現在の私たちにもたらしているものを理解しようとするとき、『平井嘉一郎氏が私たちに遺してくださったもの』に思いをはせることが重要であることは、言うまでもありません。私たちが未来へ引き継がねばならないものとは、まさにそうした精神ではないでしょうか。
本日は、貴重なお時間を頂戴しありがとうございました。

今回の対談で取り上げられた施設の紹介

平井嘉一郎記念図書館

嘉一郎様のご遺志を引き継がれた平井信子様のご寄付によって2016年4月1日に開館。1階エントランスには、平井嘉一郎様の座右の銘「天知る 地知る 己知る」などの銘文が掲げられている。総座席数2000席、白川静文庫・加藤周一文庫などを含む多様な資料を100万冊以上収蔵。仲間と共に問題解決を図り、社会で体験した学びを共有する新しい学習・教育スタイルを実践、発信できる施設が整っている。

エントランス

アカデミックシンボルとして格調と重厚感ある外観を構成。入口には、ウォークスルーで貸出手続きができる国内初のゲートを設置。

ライブラリーバレー

3層吹き抜けのシンボル的空間。透明ガラスが各エリアをゆるやかにつなぐことで、学びと本の風景が一体化。

ぴあら

仲間と声を出してディスカッションやプレゼンテーションをしたり能動的な学びが可能。

白川静文庫・
加藤周一文庫

本学にご縁のあるお二人の蔵書や関連図書等を一部開架している。

平井嘉一郎メモリアルルーム

メモリアルルームは、平井嘉一郎様を末永く顕彰する目的で設置された。嘉一郎様の愛用品やゆかりの資料、嘉一郎様の歩みと功績を記した年表、そしてニチコン株式会社の製品、立命館との関連などの資料を展示している。「平井嘉一郎研究奨励賞」や「平井嘉一郎記念図書館」の設立に込められた理念と、平井嘉一郎様が私たちに遺した学術的・精神的遺産を紹介する展示空間である。

愛用品やゆかりの資料などを展示

受賞された紺綬褒章

ご愛用されていたメガネ

Profile

樋爪 誠 氏

立命館大学図書館長
(立命館大学法学部教授)

平井 信子 氏

平井嘉一郎記念財団理事長